横浜F・マリノスをACL決勝に導いた“楽しむ”姿勢。変化を生み出したキューウェル監督の「選手目線」
それでもキューウェル監督は「楽しもう」と語りかける
「サッカーを楽しむ」というのは、簡単なようで難しい。 原点に立ち返ろうとしたって、勝ち負けに人生がかかるプロの世界では結果がすべて。1つのミスが命取りになる。戦うステージが高くなればなるほどワンプレーの重みは増し、クラブの将来を左右する状況でミスはできないという後ろ向きな意識も生まれる。選手たちは想像を絶するほどの重圧と向き合って、ピッチに立っているのである。真剣に勝利を追い求めれば追い求めるほど、「楽しむ」ことは忘れがちになってしまう。 それでもキューウェル監督は「楽しもう」と語りかける。誰もが憧れる「チャンピオンズリーグ」の舞台に立てる選手や監督の数は限られている。努力の末につかみ取ったチャンスで、プレッシャーに負けて思い切りプレーできなかったらもったいない。名誉ある場だからこそ、勝負を楽しんで、何としてもタイトルを獲る。欧州だろうとアジアだろうと、指揮官の「チャンピオンズリーグ」に対する思い入れは強い。 アーセナル時代にCL出場を経験し、10年以上にわたって欧州でプレーしてきた宮市にとってもキューウェル監督のアプローチは異質に映る。 「一選手である以上、試合にはプレッシャーがあって、ミスはできないという精神状態になりがちなんですけど、ハリーは試合前のミーティングで『本当にいい選手は笑ってプレーしている。だから笑顔を見せながらサッカーをしてほしい』とよく言うんです。そういった言葉は、なかなか監督から聞いたことがなかった」(宮市) だが、選手目線で語りかけ、大舞台でもプレッシャーを取り除いて信頼とともにピッチに送り出してくれるからこそ、100%以上のパフォーマンスを発揮できるのである。「彼自身もいろいろな経験をして、選手時代にそういった思いでプレーしていたのかなと思いますし、そういった言葉は僕ら選手からしても肩の荷が下りるというか。やっぱり本質である『サッカーを楽しまないといけないな』というのは、すごく考えさせられます」と宮市は頷く。