横浜F・マリノスをACL決勝に導いた“楽しむ”姿勢。変化を生み出したキューウェル監督の「選手目線」
変化を生み出したキューウェル監督の「選手目線」
キャリア5度目のACLに挑んでいる水沼は、こう語る。 「ハリーに関しては、現役時代に自分がCLを獲っていて、『CLって難しいけどめちゃくちゃ楽しいものだよ』みたいな、指導者目線というよりも同じ選手の立場としての言葉がいろいろな話の中に含まれています。『楽しい大会なんだ。楽しむことが一番なんだ』みたいなアプローチをしてくれるので、それはケヴィン(・マスカット監督)やアンジェ(・ポステコグルー監督)とは違ったと思います」 前任者たちもクラブの歴史を変えるべくACLを戦っていたが、そこに臨むにあたっての意識づけはキューウェル監督の「選手目線」が入ることで変わった。今年に入ってからの選手たちの発言を聞いてきて、筆者が最も「変わった」と感じたのが水沼だった。明らかに指揮官の影響を受けて、もともと前向きだったマインドがさらに前向きになっている。 「それでプレーが変わることはないと思いますけど、気持ちは変わったかな」と語ったトリコロールの18番は、次のように続ける。 「リーグ戦とACLを一緒に戦うのは忙しくて大変だけど、そういうことじゃないというのはハリーに話してもらって、感じるところがあった。ACLはまったく苦しみではなく、喜びに感じることだし、強いチームしか経験できないことで、それを経験できるのは自分たちしかいないんだ。だから楽しもうぜ!みたいな感じですね。選手としてはなんかすごくいいな……と僕自身は思います」 水沼は「プレーが変わることはない」と言っていたが、実際のところマインドの変化によってプレーにも好影響が及んでいるように感じる。気持ちに余裕ができたことで、選手たちは無意識のうちにより自信を持ってピッチに立てているのではないだろうか。 特に退場者を出して前半のうちに10人になりながら、PK戦までもつれた激闘を制したACL準決勝第2戦は象徴的だった。どんなに苦しい状況でも、常に勝ちをイメージしながら楽しむくらいの前向きさがあったからこそ、決勝への扉が開いた。満身創痍だったはずのPK戦も、スタンドから見ていてマリノスが勝つ予感しかなかった。 「この前の蔚山現代との第2戦は、緊迫感もありながら、そこまでみんなに『ドキドキしてヤバい』みたいな感じがなかった。それこそPK戦や延長戦が始まる前に円陣でみんなと顔を合わせたら、もちろん集中していて『絶対やるぞ!』みたいなものがある中に『さあいこうぜ! やってやろうぜ!』と、その状況を楽しみたい気持ちがちょっとあったんじゃないかなって。 僕は試合に出ていたのでPK戦でセンターラインに並んでいる時も、肩を組んでいるマリノスの選手たちの姿よりも、向こう(蔚山現代)のほうがこわばっている感じもした。それは監督のアプローチでちょっと違った部分があったんじゃないかなと。『楽しもう』と言われたことで、僕自身は『楽しもう』と思えたので、そういう振る舞いができたかなと思いますね。だから、ああいう結果につながったんじゃないかな」 そう語った水沼は2人目としてPKを決め、マリノスは5人全員が成功。一方、蔚山現代は5人目のキム・ミヌが失敗し、夢破れた。