じつは、怖い思いをしたから…危ないと止められている…つぎの登山を「もっと快適で安全」にするための「意外な視点」
山を快適かつ安全に歩くための2つのポイント
山を快適かつ安全に歩くためには、次の2点が必要です。 第1に、登山がどんな特徴を持つ運動なのかを知ることです。 第2には、自分の身体がどんな仕組みで動くのかを知ることです。 これらの知識を活用すれば、山で上手に身体を動かせるようになります。加えて、ふだんから適切なトレーニングをすれば、さらに効果が高まります。このたび出版した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』ではこのようなことについて、筆者たちの研究成果を交えながら解説しました。
登山に「運動生理学」をあてはめる
たとえば、上り坂で速く歩くとなぜ疲れるのでしょうか。当たり前すぎて考えたことがない、という人が多いと思います。本書では、歩く速さと疲労との関係を、身体の仕組みと関連づけて説明しました。これを理解すれば、疲れにくい歩き方を自分で実践したり、さらに自分なりの工夫をしていくこともできるようになるでしょう。 同様に、「筋肉痛やむくみの原因」「水を飲まないとどうなるのか」「暑い時季の注意点」「高山病が起こる理由」「歳を取ると体力はどれくらい落ちるのか」「ふだんの生活でどんなトレーニングをすればよいのか」「自分はどの程度の山に行けるのか」といった、皆さんが身近に体験したり疑問に思う問題を考えて、同書にまとめました。 このようなことを考える学問を運動生理学と呼びます。この学問は、一般人に対しては、健康づくりや体力づくりのための、安全で効果的な運動プログラムの開発に役立てられてきました。またあらゆるスポーツ種目で、競技力の向上、故障や怪我の予防、トレーニング法の開発などに活用されています。『登山と身体の科学』は、この運動生理学を登山に当てはめたものです。 登山といってもさまざまなジャンルがあり、そのレベルにも幅があります。本書は、日本で最も実施者の多い、日帰りから数泊程度の無雪期登山に焦点を当て、それを行う幅広い年代の、初心者から経験者までを想定して執筆しました。自分の身体に興味を持つ方はもとよりですが、メンバーの安全を預かるリーダーや指導者の方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。 本記事のシリーズでは、まず、登山がどのような運動なのか、健康や体力づくりから見た効果はどうなのかを、身体の仕組みと関連づけて見ていきましょう。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)