教室から席がなくなるのはイヤ──「ともに学び、ともに育つ」大阪府独自のインクルーシブ教育、揺らぐ足元
ある授業で先生から「あなたの持ち味はなんですか」と聞かれ、愛土くんは「持ち味は全盲です」と答えたという。 「4年生の男の子らしく、たくましく育ってます」 美穂子さんは目を細める。 校長の橋本直樹さん(63)と訪ねた6年4組の教室では、木野翔太くん(11)が胃ろうによる給食を終えたところだった。翔太くんは、先天的に皮膚がのびやすかったり、関節が柔らかくなったりする「エーラス・ダンロス症候群」という病気で、食事や歩行に困難を伴う。気管切開もしている。
近くにいた女子児童が橋本校長に「なんで写真を撮ってんの?」とたずねた。橋本校長が「翔ちゃんがみんなと一緒にいるのが珍しい、って言って取材に来たんやで」と答えると、その女の子は怪訝そうに話した。「どこが珍しいの? ずっと一緒にいるのに」 翔太くんの母、美奈さん(42)は南桜塚小学校のうわさを聞いて、翔太くんが保育園に通っている時に、他市から豊中市に引っ越してきた。「その選択は本当に間違いじゃなかった。友達の翔太への接し方が自然で、本当に素敵。学校での様子が当たり前すぎて、障害児とか健常児とかいうのを忘れてしまう」
「原学級保障」という大阪府独自の教育
「大阪府においては、これまでも、『ともに学び、ともに育つ』教育を基本とし、障がいのある児童・生徒等の自立と社会参加をめざす教育を推進してきました」 大阪府教育委員会が作成した就学相談・支援ハンドブックにある文章だ。この「ともに学び、ともに育つ」教育を可能にしてきたのが、「原学級保障」という大阪府独自のやり方だ。 大阪の教育関係者は、支援学級に対して通常の学級を「原学級」と呼ぶ。公立小中学校の多くで、支援学級に在籍する児童・生徒も、障害のない児童・生徒とともに原学級で学んでおり、出席簿にも50音順で名前がある。この方式を原学級保障と呼ぶ。 紹介した南桜塚小学校の3人の児童はいずれも支援学級在籍だが、同級生と一緒に通常学級で授業を受ける。現在、彼らを含め、「弱視」「知的障害」「自閉症・情緒障害」「肢体不自由」「病弱身体虚弱」にあてはまる児童47人が9つの支援学級に在籍するが、いずれも通常学級で学んでいる。 さらに、「支援担」と呼ばれる支援学級の担任や介助員たちが、在籍児童の状況や授業内容に合わせ、教室に入ってサポートする。「入り込み」と呼ばれ、大阪府の教育現場では比較的スタンダードなやり方だ。 南桜塚小学校の支援担の1人で、6年前にギラン・バレー症候群を発症し、車いすユーザーとなった中田崇彦さん(47)が説明する。