進む「農福連携」、農業の雇用創出と障がい者の自立を両立させるアプローチとは
障がいのある人が農場で働き賃金を得て、自立への道を模索する。農場はその人たちの手を借りて人手不足を解消する。農業×福祉の政策「農福連携」の取り組みが全国で広がっている。どういう仕組みなのか、どんな仕事をしているのか。鹿児島と千葉の例を紹介する。(ライター・伏見学/写真・宮井正樹、小禄慎一郎/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
山道を曲がると、突然視界がひらけ、青空の下には濃緑の茶畑が広がっていた。なだらかな傾斜の道をゆっくりと歩く人や、花に水やりをする人が遠くに見える。聞こえてくるのは牛の鳴き声だけ。のんびりとした時間が流れている。 ここは鹿児島県南部、南大隅町の「花の木農場」。人口減少率と高齢化率が共に県内トップ(2020年の国勢調査)という過疎の町にある農場が、その規模や収益性の高さから全国の農業および福祉関係者から注目を集めている。2020年に始まった農福連携の好事例を表彰する「ノウフク・アワード」でも初代グランプリに輝いた。
農場を共同運営するのは、社会福祉法人白鳩会と関連団体である根占(ねじめ)生産組合だ。総面積約38.3ヘクタールの敷地内で、豚や牛の飼育、お茶、ニンニク、野菜の栽培、さらにはソーセージやギョーザの食品加工など、さまざまな生産活動を行う。現場で働くのは、同法人の施設を利用する障がい者たちだ。 「今の時期(昨年11月末)はお茶畑の管理作業がメインですが、春になると製茶工場で働いています」 慣れた手つきで肥料を畑に散布しながら、そう教えてくれたのは濱屋奏昭さん(41)。知的障がいがある濱屋さんは24年前に白鳩会の施設に入所。当初は白鳩会が運営していたブロック工場などで作業をしていたが、27歳のころ「製茶工場で働いてみないか」と誘われて、根占生産組合と雇用契約を結んだ。お茶は花の木農場の主力事業で、作付面積は7万平方メートルに上る。 「もしそこで断ってしまえば、これから先はないだろうと思いました。社会に出るためのチャンスを与えてくれたようなものだと思って、働きたいと手を挙げました」