全室スイートも…新規就航相次ぐ、「クルーズ船」活況の背景
日本郵船、LNGの「飛鳥III」投入
日本郵船が7月に就航する「飛鳥III」は、総トン数が5万2000トンで、乗客定員740人。独マイヤーベルフトが建造した。液化天然ガス(LNG)燃料を採用し、二酸化炭素(CO2)の排出を減らすなど、環境にも配慮している。 渡辺和俊日本郵船客船事業グループ長は「市場環境が恵まれている時期に就航できる」と話す。クルーズ船は海外を中心に大型船が就航するなど、市場が活性化しており、23年にはコロナ禍前の19年の乗降客数を突破。27年には4000万人近くに達すると予測されている。 当初、飛鳥IIIは老朽化していた飛鳥IIの後継船と目されていたが、06年に就航し船齢が30年以上の飛鳥IIの後継船と目されていた。だが、クルーズ船の市場環境の変化を受け、「客船事業を中核事業と位置付けた」(渡辺グループ長)ことで、リプレースから飛鳥IIも維持する2隻体制にかじを切った。 両社のクルーズ船に共通するのは、中型船形で高価格帯のラグジュアリークラスであること。市場で主流となっているのは、1000人以上が乗れる大型船で、5日間のクルーズで10万―30万円の手頃な価格のカジュアルクラスで市場を広げている。一方、三井オーシャンフジは5日間のショートクルーズの最低価格が1人50万円程度と、庶民にはなかなか手の届かない高根の花だ。渡辺グループ長は「まず外国船からクルーズ船に入ってもらって、次に飛鳥に乗ってもらう」と、マーケティングの明確なすみ分けを狙う。 両社が客船事業へ本格的に投資する背景には、海運業界がコロナ特需で業績がV字回復し、急速に投資余力を得たことがある。日本郵船の曽我貴也社長は「飛鳥IIもあと5―6年。今後2年くらいで、2隻体制維持を念頭にマーケットリサーチする」と述べ、投資を継続する意向を示す。両社ともにここ20年、海運市況低迷による厳しい事業環境の中、船齢の長い船1隻で細々とクルーズ船事業を続けてきたが、大きな転換期を迎えている。