「もうムリ、ごめんね」50代独身ひとりっ子、年金15万円・80代の同居母を残し、生まれて初めて実家を離れた切実理由
人生をあきらめつつ、母の面倒を見るつもりだったが…
子どもを自分の支配下に置き、思い通りにしようとする親は少なくないようだ。当然子ども反発するが、親に抗いきれないと、佐藤さんのように押しつぶされたまま、年齢を重ねることになる。そのような関係では、円満なコミュニケーションなど望むべくもないだろう。 合同会社serendipityが20歳以上60歳未満の男女に対して行った『親子関係についての調査』によると、「親と円滑なコミュニケーションが取れているか」の問いに対して、男性が14.7%、女性が22.1%は「いいえ」と回答。また「親が毒親※だったと感じることはあるか」の問いに対しては、男性25.5%、女性33.1%が「よくある」、男性36.3%、女性32.8%「たまにある」が回答。 ※ 毒と比喩されるような悪影響を子どもに及ぼす親、子どもが厄介と感じるような親を指す俗的概念(ウィキペディアより) これを見る限り、自分の親が「毒親だった」と感じている人は6割にもなる。 「父が亡くなってから、ますます母親は私にきつく当たるようになりました…」 佐藤さんの母親は専業主婦で、亡き父親は不在がちだったが、サラリーマンを真面目に勤め上げた人。そのため、母親は月額15万円程度の年金を受け取っており、ほかにも父の預貯金が2,000万円程度、そして佐藤さんが小学生時代からずっと暮らしている、築古の実家もある。 「父親の相続のときには、私は書類への捺印を求められただけでした。このとき初めて実印を触りましたが、その後は母が持ち去り、どこにしまってあるかもわかりません」
母親から放たれた、決定的なひと言
「これまで母親の意見に折れてきましたが、先日の〈母の言葉〉がきっかけになり、母への気持ちがなくなってしまいました」 母親に従順だった佐藤さんは、なんと50代になってから、実家を出る覚悟を決めたという。 「私はひとりっ子で、母親とはきわめて距離が近い関係。それに、母親は一度も働いたことがなく、20歳のときから父に養われてきた人。心のどこかで〈母親を助けなければ〉という気持ちがあったんですよね…」 ある日、例によって母親に小言を言われていた佐藤さんだが、決定的な出来事があった。 「母親から〈お母さんは、あなたの犠牲になった〉と言われたのです。一体どの口が言うのかと。人の心って不思議ですね。その言葉を聞いて私、何もかも本ッ当に、どうでもよくなってしまたんです…」 佐藤さんは数日のうちに、会社の沿線のワンルームマンションを契約。最低限の荷物をボストンバッグに入れて家を出た。 「母はまだ頭もしっかりしているし、家事全般も大丈夫。でも、これから介護が始まったら、もう逃げられないじゃないですか。家族は私だけですから、最後まで面倒を見るつもりだったけれど、もう母のことはいいです。本当に、もう知らない」 厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、「要介護者」からみて「主な介護者」で最多は「配偶者」で22.9%。続いて「子」が16.2%。「事業者」は15.7%で6~7人に1人という割合となっている。 「お金もあるし、いざとなれば他人を頼ればいいでしょう?」 佐藤さんは、まだ母親が寝床にいる日曜日の早朝、「お母さん、もうムリ。ごめんね」というと、静かに玄関ドアを閉めた。 「自宅のカギは、ポストに返しました」 佐藤さんの人生は、50代にして大きな転機を迎えたようだ。 [参考資料] 合同会社serendipity『親子関係についての調査』 厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』
THE GOLD ONLINE編集部