リスキリング革命で不要になった「過去の成功体験だけで組織を率いるリーダー」
リスキリング・リーダーシップに求められるメンタルモデル
リスキリングを推進していくリーダーに求められるのは、「過去の自分の成功体験によって組織を率いるリーダー像」ではなく、「自分ですら未知の変化(テクノロジー)を駆使して戦略の実現を図ろうとするリーダーの姿」です。 私が尊敬する、とある企業の人事責任者の方はこうおっしゃっていました。 「リスキリングの推進には、個々人のスキルの違い、組織間のスキルの違い、あらゆる階層で違いを理解して活かしていく、ダイバーシティ&コラボレーションが重要になる」 なるほど、確かにそうだと納得しました。 見方を変えれば、過去の自分の成功体験によって組織を率いるリーダーが、「チームで確実に成果を出すには、過去に成功体験のないやり方は積極的に取り入れるべきでない」と考えるなら、基本的には自分と同質の人材と仕事をするほうが正しい判断となります。 他方、新たなテクノロジーを駆使して顧客に評価され、多くの売上や利益を創出することを目指すリーダーが、「過去に成功体験のない方法に挑み、新たに成功を求める」のであれば、自分と異質の人材と仕事をせざるを得ません。また同質の人材に対しても、異質のスキルを求めることになります。少なくとも、過去の自分の成功体験に立脚したスキルをインプットすることばかりに腐心していては、変化に対応することはできません。 テクノロジーによる変化を受け入れ、時代にあった戦略を常に考え続けるリーダーは、そのチャレンジにおいて必要なスキルをチームに装着し続ける必要があるのです。
将来的に生み出す売上を高めてくれるリーダーとは?
リーダーのメンタルモデルが、「担当業務領域において自分が一番詳しい状態であるべき」となっている場合、またその状態が心地よいと感じてしまっている場合、そのメンタルモデルを変えなければなりません。 自分が掲げた戦略や目標に対して、チームメンバーが新しいテクノロジーや他社のやり方を試したいと進言してくれて、リーダー自身も新たな気づきや着想が得られる──そういう状態を心地よいと思えるようになる必要があるのです。 言葉ではテクノロジー活用を訴えていても、実際の仕事の場面でテクノロジーの活用が志向されていない、チャレンジされていない状態に対してリーダーが違和感を抱いていなければ、チームは挑戦しようとは思いません。 そのようなリーダーが現場を率いる企業では、中期経営計画でデジタルによる事業価値向上や全社的なDX推進の取り組みが行われていたとしても、現場で変革は起こりません。 一方で、時代に合わせた顧客の課題解決を常に考え、テクノロジー活用を常に志向しているリーダーは、中期経営計画や全社の方針に呼応して、チームにチャレンジの機運を生み出します。 世界的なリスキル革命の流れに始まり、最近の生成AIの出現によって、デジタルによる顧客価値向上と、はたらく人々に求められる役割の変化は不可逆的な流れになっていることに、もはや議論の余地はないでしょう。 次世代リーダーの育成を考えるとき、旧来の成功体験に立脚した確実性の高いリーダーシップを評価するのか、変化による不確実性をコントロールする力に長けたリーダーシップを評価するのか。 企業価値を高める、つまり将来的に生み出す売上や利益を高めてくれるリーダーはどちらでしょうか? これまでは前者に期待される既存事業の確実な成長というメリットが大きかったかもしれません。しかし、これからは前者の選択には変化対応力の低下、相対的に急激な競争力の消失などのリスクを勘案しなければならないでしょう。 したがって、いま現場で活躍し、過去の成功体験に立脚して確実な成果を創出できるリーダーには、顧客価値向上を本質的に考えてテクノロジーを活かせるリーダーとしての期待がより寄せられているのです。
柿内秀賢(Reskilling Camp Company代表)