相次ぐ更迭、目玉政策も外交も手詰まり トランプ政権 発足半年で末期的?
米トランプ政権のスカラムッチ広報部長が就任からわずか10日で辞任しました。事実上の更迭とみられています。公約に掲げた医療保険制度改革(オバマケア)見直しも上院で過半数を確保できず頓挫。対ロシア制裁をめぐって米ロ関係に緊張が高まり、北朝鮮問題でも八方塞がりになりつつあります。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【写真】“学級崩壊”状態のトランプ政権 「ロシアゲート」で疑惑報道相次ぐ
わずか10日……迷走する人事
前回、5月28日掲載のこのコラムでトランプ政権が「学級崩壊」状態にあると述べたが、それから約2か月が経ち、その混迷は一層強まっている。政権発足からわずか半年にもかかわらず……というより、政権末期も含め、ここまで不協和音が露わの米政権を私は知らない。スキャンダルや内部リークとはほぼ無縁だったオバマ前政権とは比べるべくもない。 まず、ホワイトハウスでは、スパイサー報道官とプリーバス首席補佐官が事実上の更迭となった。両氏とも共和党とのパイプが強く、プリーバス氏は共和党の全国委員長の要職にあった人物でもある。米国では大統領といえども議会の協力なくしては法案を通すことはできない。公職経験がなく、反ワシントン=反エスタブリッシュメントの旗を掲げてホワイトハウスの主となったトランプ氏を「現実」に引き戻す役割を期待されたのがプリーバス氏だった。しかし、ロシアゲートの疑惑払拭やオバマケアの改廃が思うよう進まないことに苛立ったトランプ氏は両氏への不満を募らせていった。 さらには、セッションズ司法長官についても(ロシアと不適切な関係があったとの批判を理由に)ロシアゲートの捜査に関与しない方針を早々に打ち出したことに対して苛立ちを隠さない。「モラー特別検察官の任命を許してしまったのはセッションズ氏のせい」という意識が強いようだ。最近では、セッションズ氏の更迭やモラー特別検察官の解任をほのめかす発言もしており、さすがに共和党内からも懸念の声が挙がっている。 モラー氏が解任されるとなれば大事だ。正確に言うと、大統領は特別検察官を直接は解任できないので、司法長官(今回の場合はローゼンスタイン副司法長官)を通して解任することになる。まさにウォーターゲート疑惑の渦中にニクソン大統領が採った手法(いわゆる「土曜日の夜の虐殺」)だが、そのことが世論や議会を硬化させ、結果的にニクソン氏を追い込んだことは周知の通りだ。 加えて、政権発足早々に(ロシアと不適切な関係を理由に)更迭されたフリン氏の後任、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)との不協和音も伝えられる。マクマスター氏は湾岸戦争での貢献で銀星章を受章した優れた軍人でありながら、軍事史の博士号を持ち、1997年の著書ではベトナム戦争時の政府や軍の対応を批判するなど「物言う軍人」として知られる。ところがアフガニスタンへの増派を求める同氏の主張が、内向きな「アメリカ第一主義」や「経済ナショナリズム」を唱えるバノン上級顧問などに疎んじられるなど、政権への不満を募らせているマクマスター氏が近々辞任するのではとの憶測も飛び交っている(ちなみにバノン氏は、米国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーからは外れたものの、政権全体への影響力は衰えておらず、パリ協定からの離脱なども主導したとされている)。