相次ぐ更迭、目玉政策も外交も手詰まり トランプ政権 発足半年で末期的?
オバマケア見直し断念、税制改革に暗雲
政策面に関しても、TPPやパリ協定からの離脱、保守派のゴーサッチ氏の最高判事指名(就任済み)、イスラム圏6か国からの入国制限の一部執行などを除けば、トランプ氏の公約はほとんど実現できていない。 とりわけ「オバマケア」の改廃や国境調整税の導入といった目玉の政策が頓挫したことは痛手だ。両者を実現することで財源を拡充し、大胆な税制改革(法人税や所得税の大幅引き下げ)や巨額のインフラ投資を実行するという当初の青写真が修正を余儀なくされるからだ。市場の期待感もしぼみつつある。今年1-3月のGDP確定値も1.4%の伸びに留まるなど、トランプ政権には厳しい経済指標が続いている。 両者の頓挫の背景には業界の思惑も深く絡んでいる。既得権益の一掃(いわゆる「ワシントンのドブさらい」)を約束したトランプ氏も、結局は、ワシントンの沼地に足を取られつつあるということだろうか。 トランプ氏本人は「私は当初からオバマケアが破綻してから改廃すれば良いと主張していた」と変節し、今後は税制改革をシフトしたいようだが、大統領の責任感や指導力の欠如が改めて露呈した今、共和党内での求心力はさらに低下している。原理原則にこだわる「保守派」とより現実的な「穏健派」の党内対立をトランプ氏なりホワイトハウスが融和できるとは思えない。 トランプ氏にとっての生命線であるコアな支持者を離反させないためには、反エスタブリッシュメントの姿勢を強化するしかなく、そうすればマケイン上院議員など共和党重鎮との軋轢がさらにますことになる。 9月下旬までに連邦政府の債務上限を引き上げることができなければデフォルト(債務不履行)に陥る可能性もあるが、トランプ氏やバノン氏はそれを容認するかのような発言もしている。
ロシア疑惑に北朝鮮問題、狭まる選択肢
外交面でもトランプ氏の目論見は狂い始めている。 当初、親ロシア路線を志向したものの、議会のほうは大統領選への干渉やウクライナ南部クリミアの併合などをめぐりロシアへの反発を強めていった。7月28日には圧倒的多数でロシア制裁強化法案を可決し、ロシアゲート疑惑が深まるなか、トランプ氏も同法案への署名を明言するに至った。同法案は大統領が一方的に制裁を緩和・撤廃することを禁じており、トランプ氏としてはまさに手足を縛られた格好だ。 ロシアのプーチン大統領は対抗措置として米外交官ら755人を国外追放すると表明しており、今年4月の米国のシリア爆撃で高まった両国の緊張が再燃しかねない状況になっている。そうなれば、当然、北朝鮮問題にも影響が出てこよう。 また、北朝鮮が2回目の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと発表したことを受けて、トランプ氏は7月29日、「中国には大変失望している。中国は北朝鮮に何もしていない」とツイートした。北朝鮮問題への協力と引き換えに、これまで為替や通商、知的所有権、サイバーセキュリティ、海洋進出などに関して中国への批判をトーンダウンしてきたが、今後、北朝鮮と取引のある企業や個人への制裁(いわゆる「二次的制裁」)を強化する公算が高まった。そうなれば中国は猛反発するであろうし、北朝鮮問題をめぐってはロシアとより歩調を合わせることになろう。北朝鮮への直接的な軍事攻撃のハードルが高い中、米国の選択肢はさらに狭まることになる。当初こそ空母を朝鮮半島近海に派遣するなどオバマ政権との違いを示威したトランプ政権だが、実質的には、ますますオバマ政権と大差なくなってきている。 北朝鮮が核保有すれば、闇の市場を通して、核の不拡散体制が有名無実化しかねない。北朝鮮が次の核実験に踏み切った際、軍事的なオプションも含めて、米国がいかなる意志と戦略をもって行動するか。まさに正念場だ。 日本としては、北朝鮮問題では米国と歩調を合わせる必要があるが、米国と歩調を合わせるあまり、日本外交そのものの幅まで狭めることのないよう巧みな外交戦略が求められる。
-------------------------------- ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など