【空き家問題】放火、倒壊、空き巣…近隣住民は“恐々”も、所有者本人は「特に困っていない」衝撃のギャップ
年々、加速する「空き家問題」。近隣住民のほうが実害を想像しやすく、所有者本人はその深刻さを実感しにくいという非対称性があることから、事態は難航しています。しかし2023年の法改正により、「これまで放置されてきた空き家」も対処に迫られる可能性が出てきました。空き家を放置すると、近隣住民や所有者にどのような問題が生じるのか。所有者は「放置」以外にどのような選択肢を取れるのか。不動産活用のプロ・松久保正義氏(和工房株式会社 代表取締役)が解説します。
2033年には住宅の30%が「空き家」…深刻化する空き家問題
テレビや新聞でよく耳にする「空き家問題」。国土交通省の発表によると、国内の空き家数は2018年時点で849万戸。実に、国内住宅数の13.6%もの住宅が空き家になってしまっています。 そして、この割合は年々増加しており、2033年には空き家率30%に達するという予測を立てている機関もあるほどです。これほどまでに日本の空き家問題は深刻化しているのです。 図表1では、『空き家の種別割合』として、空き家を賃貸用住宅・売却用の住宅・二次的住宅・その他住宅、と分類しています。 「賃貸用住」とは、その名の通り、アパートや賃貸用マンション等、住宅として貸しに出されている住宅のいわゆる「空室」、もしくは稼働していないアパート・マンションです。 「二次的住宅」とは、別荘等、二次利用を目的とした住宅です。 では、「その他住宅」とは一体何なのでしょうか? これは、前述した「賃貸用住宅」「二次的住宅」「売却用の住宅」(後ほど詳しく触れます)以外の住宅。つまり、一戸建て等、居住用の使われていない住宅のことを指しています。 この「その他住宅」の割合が年々増加し、社会問題として取り上げられているのです。
空き家問題における“最大の被害者”は「近隣住民」
では、空き家が増えることの何が問題なのか? 想定される問題として下記が挙げられています。 -------------------------------------------------- ●防災性の低下…倒壊、崩壊、屋根・外壁の落下、火災発生の恐れ ●防犯性の低下…犯罪の誘発 ●ごみの不法投棄 ●衛生の悪化、悪臭の発生…蚊、蝿、ねずみ、野良猫の発生、集中 ●風景、景観の悪化 ●その他…樹枝の越境、雑草の繁茂、落ち葉の飛散 等 【※国土交通省 資料 (https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001518774.pdf) より】 -------------------------------------------------- 上記のように、その地域や近隣に住む住人にとっては深刻な問題となっているケースも多々あります。 実に700件を超える空き家を見てきた筆者が、その経験を踏まえ、上記の問題に対する見解をお伝えします。 ■防災性について ニュースや新聞で見るように、倒壊・崩壊しそうな住宅というのは、そこを通る方々にとっては怖い存在であるのは間違いありません。ましてやその場所がお子さんの通学路となると、親御さんの心配はいっそうのことと思います。 一方で、各自治体の調査やアンケートを見ていると、倒壊・崩壊しそうな住宅というのは、実は多くはありません(もちろん今後増えていく可能性は大いにあります)。 倒壊・崩壊しそうな住宅以外の住宅も含めて、防災性の観点から見ると、一番の脅威は火災ではないかと思います。 嘆かわしいことですが、放火と見られる空き家での火災をニュース等で耳にすると、放火犯としては、誰も住んでいないからこそ心理的にも犯行に及びやすかったのでは?と感じます。 空き家で起こる火災の原因は、もちろん放火だけではありません。放置されていた枯木・枯葉等に何らかの要因で火が点いて一気に燃え広がってしまったり、屋内で何かしらの理由で火種が発生したりすることも考えられます。空き家では誰も住んでいないため周囲も気がつかず、消火活動も行われないため、最初はわずかな火でも大きな火災へと発展してしまいます。命をも奪いかねない深刻な問題です。 ■防犯性について やはり多いのは空き巣被害ではないでしょうか。空き家の調査に伺う中で、空き巣被害に遭われている住宅をよく見ます。やはり人がいないので、入りやすいのでしょう。空き家の所有者の方に「大変でしたね…」とお声がけしたところ、「またガラスの修理代がかかっちゃう。盗られるものはないんだけどね」とお聞きしたこともありました。 空き巣については、所有者本人はもちろん、普段からその地域に住んでいるお隣さんも気が気ではありません。今度は自分の家に空き巣が入るのではないかととても不安になってしまいますし、実際に被害に遭われてしまう可能性もあります。 また空き巣に限らず、知らない人が住みついてしまうんじゃないか、何かの犯罪に使われてしまうんじゃないかと、地域住民にとっては不安の種になってしまっています。 ■空き家が増えれば、その地域の不動産価値が下落する要因にも 衛生問題や害虫・害獣問題、景観や枝木の越境など、近隣住民の不安と迷惑を挙げればキリがありません。さらに、その地域に空き家が増えることで、不動産価値の下落要素になってしまうといった資産的な問題に直面してしまう可能性もあるのです。 このように空き家とは、所有しているご本人もそうですが、何よりもその地域に住まう近隣住民に不安を与えたり、実害を及ぼしたりすることが問題なのだということがわかります。