食に、仕事に、生きることに感謝 1300年以上前から行われていた新嘗祭を知る
毎年11月23日は、国民の休日「勤労感謝の日」。ご存知の方も多いかもしれませんが、戦前は「新嘗祭(にいなめさい)」として知られた重要な祭礼日でした。読んで字のごとし、「新しい(収穫物を)嘗めて頂く祭」という意味のお祭りです。「新」は新穀を、「嘗」は神様が御馳走を召し上がること、あるいは御馳走そのものを意味します。
古来、日本ではお米に代表される秋の恵みの収穫は一年の農作業の集大成です。苦労して育てた稲をはじめとする穀物の収穫を無事迎えることができた喜びと感謝の念を込めて、その年に収穫された新穀や新しく醸した酒などを神様にお供えしてきました。 その歴史は古く、養老4年(720)に完成した日本最古の正史『日本書紀』の神代巻には、天照大御神が新嘗を召し上がったと記されています。神話の時代以降でも、皇極天皇元年(642)や天武天皇6年(677)に新嘗祭を行ったといった記録があります。 もとは旧暦11月の二の卯の日に斎行していましたが、明治時代に今の太陽暦が採用されて以降は、新暦11月23日に行うことが定められました。 いずれにしても、至高の神といわれる天照大御神や、時の天皇が中心となって行う祭典でした。この伝統は長い歴史の中で一時は中断を余儀なくされたものの、現代にまで受け継がれています。毎年11月23日には皇居内にある神嘉殿にて、天皇陛下が御親ら新穀を神々に捧げた後、ご自身もお召し上がりになることで、神々と共食しつつ収穫に感謝する儀式を行っています。
新米は11月23日以降に食すべし
新嘗の語源は諸説がありますが、「新穀で饗宴をする」ことからきているのではないかとの説があります。天皇陛下が神々と共食をすることからも、新穀をもってともに饗宴をするという語源に納得がいきます。 新嘗祭では、天皇陛下御御親ら神饌を盛り付けて、神様にお供えされることからも、このお祭りがどれだけ重要なお祭りかが伺えます。ちなみに、皇居での新嘗祭は毎年行われていますが、天皇が御代替わりをし、即位の礼が行われた後に最初に行う新嘗祭は「大嘗祭」といって、より盛大に行われます。 全国の多くの神社でも皇居での新嘗祭に習って、11月23日に新嘗祭を斎行しています。年間通して様々なお祭りが行われる神社ですが、各神社の例祭とこの新嘗祭は特に重要で、「大祭式」というもっとも盛大な儀式を行うことになっています。 また、イマドキは年中いつでもおいしいお米を食べることができる幸せな時代ですが、昔は新嘗祭までは新米は食べないという風習がありました。新穀、特に新米は神様のおかげで得ることができた恵みなのだから、神様を差し置いて自分達人間が先に新米を食べてはならない、というわけです。 私たち神職はもちろんそれを守っている人が多いと思いますが、一般ではあまり聞かなくなった風習かもしれません。でも、11月23日がもともとどんな日なのかを意識することで、日々の食事を頂けること、働けること、生きていること、生かされていることに感謝する豊かな心を持つことができるのではないでしょうか。新嘗祭まで新米を我慢するのも、そうした意識を大切にする意義があるのかもしれません。