食に、仕事に、生きることに感謝 1300年以上前から行われていた新嘗祭を知る
税金の起源「懸税」とは
私の奉職する東京・日本橋の福徳神社でも、もちろん11月23日に新嘗祭を斎行しております。高層ビルの谷間という場所柄、日照時間がとても短い境内ですが、毎年、春には小さいながらプランターに稲を植えて栽培し、新嘗祭までに収穫、脱穀をし、神様にお供えしております。都会のど真ん中で小さな田んぼが見られると、近隣に勤める方々からもご好評をいただいております。
伊勢神宮は全国神社より1カ月早い、10月15~17日に神嘗祭というお祭りを行っています。至高の神である天照大御神をはじめとする伊勢の神々に、どなたよりも早く新穀を召し上がって頂くためです。この神嘗祭に先立ち、天皇陛下や全国各地からその年に収穫された新米の稲束が神宮に奉納されます。これを「懸税(かけちから)」と呼び、神嘗祭および新嘗祭まで神宮の玉垣にかけられます。 「懸税」はもともと、伊勢に天照大御神を奉祀した倭姫命が、収穫した稲穂を天照大御神の御神前にかけたのが始まりと伝えられ、神宮に習って各地の神社でも御神前に懸税がかけられます。昔はお米が今でいうお金の代わりとして納められていたこともあり、懸税は現在の税金の起源といわれています。 当社でも「懸税」をお供えした後、せっかく神様のお庭(境内)でとれたお米ですので、新嘗祭の日には、お参りの方々にもお分かちできるよう、少量ずつ授与しております。
宮中や伊勢神宮などのお供え物にはとても及びませんが、神様への感謝のお供え物を古式にしつらえてご用意し、参拝者の皆様も見学できるようにしております。「勤労感謝の日」は「新嘗祭」。これを是非ご記憶頂き、11月23日には当社やお近くの神社にお参り頂き、日本人が1300年以上も前から大事にしてきた「感謝」の念を新たにして頂きたいと思います。 (福徳神社<東京・日本橋>宮司 真木千明) 著者プロフィール 真木千明(まきちあき) 昭和29年、福岡県生まれ。福徳神社(東京・日本橋)宮司。國學院大學卒業後、日枝神社、水天宮(東京)を経て現職。真木家は代々、福岡県久留米市鎮座の水天宮の宮司を務める社家の生まれで、幕末の志士・真木和泉守保臣の直系子孫。著書に『ご縁で生きる~ひとりでがんばらない処方箋』(小学館)がある。