誰もが安心できる学校に 「インクルーシブ教育」と「国立市教委の取り組み」を東大・小国教授に聞く
医学モデルの支援員マニュアルに課題意識
――国立市がフルインクルーシブ教育を進めていく上でどのような課題があると考えていますか。 「まず大切だと考えているのは、そもそも『フルインクルーシブ教育』をどう定義するのか、といった点です。先ほど、私なりの解釈を説明しましたが、共通認識を持った上で取り組みを進めていく必要があると思います」 「就学相談のシステムをどうするのか、というのも重要な論点です。とにかく、入学を控えたお子さんを持つ保護者全員に『あなたのお子さんは、地域の学校の普通学級に行く権利がありますよ』ということを明確にお伝えする。その上で特別支援学級や特別支援学校に行く権利もあるということを伝えるという形にできたらいいな、と考えています」 「また、支援員の付き添い方を考える必要もあると思っています。実際の現場を見ると、全国どこでも、支援員は配置されているのですが、支援が必要な子にべったりくっついてしまっているケースが多い。支援員のマニュアルに目を通しても、完全に医学モデルで『この子をどう支援するか』という話しか出てこない。本来は他の子どもたちとの関係づくりをサポートすることが重要です。そんなところにも課題意識は持っています」 「ただ、いずれにしても、ある程度のスピード感を持って進めていかなければいけないとは思っています。大空小学校の例などから考えても、必ずしも時間をかけなければできない話ではないとも感じています。今、学校にいる子どもたちのためにも、短いスパンで考えた方がいい話だと思います」 「教育委員会の担当者は『どんなにいいことを教育委員会が決めても、教員がその気にならないとダメだ』と話しています。私もボトムアップの取り組みが重要だと思います。幸い、実際にこれまで出会った国立市の校長たちは、フルインクルーシブ教育の話をご自身の問題として捉えている方が多く、現場の教員も意欲的な方が多いと感じています。国立市との取り組みが、日本の教育のあり方を変えるきっかけの一つになればと思っています」 ■小国喜弘(こくに・よしひろ)東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター長 1966年兵庫県生まれ。東京都立大学人文学部心理教育学科助教授、早稲田大学教育・総合科学学術院准教授、東京大学大学院教育学研究科准教授などを経て現職。著書に『戦後教育の中の〈国民〉ーー乱反射するナショナリズム』(吉川弘文館、2007年)、編著に『障害児の共生教育運動ーー養護学校義務化反対をめぐる教育思想』(東京大学出版会、2019年)などがある。最新著書は『戦後教育史』(中公新書)。