屈辱的だった無精子症、「精子提供」を選んだ家族の子への告知の在り方は
「親切な人がたまご(精子)をプレゼントしてくれて本当に良かったよ」。一般社団法人AID当事者支援会代表理事の寺山竜生さん(51)は、第三者の提供精子による人工授精(AID)で生まれた2人の娘がいる。不妊治療の一つであるAIDを受ける選択は、自分以外の男性から精子提供を受けるということ。無精子症と判明してから屈辱的な気持ちを鼓舞し、悩んで夫婦で話し合った結論だった。国会では第三者が関わる生殖医療のルールに関する法整備の議論がなかなか進まない。寺山さん夫婦は子どもの成長に触れながら「事実を伝えるだけでなく『大切な家族の1人』と伝えたい」と子どもたちに日常的に〝告知〟できる環境作りを大事にしている。(共同通信=寺田佳代) 【写真】精子もネット注文の時代?! ドナーもオンライン選択 20年
▽原因は妻じゃない 「見えませんね」。2013年、不妊治療の通院先に一人で行った妻が、精子の数や動きを調べる「フーナーテスト」の結果を見た医師に告げられた。性交後に子宮の出口にあたる「子宮頸管」の粘液に含まれる精子の状態を調べる検査で、精子が確認できないという。 男性の100人に1人とされる無精子症だった。「よせば良いのに、何も知らずに駅に迎えに行っちゃったんですよ」と寺山さんは苦笑する。迎えに行った最寄り駅で、妻は泣いていた。 まさかと思った。自分が原因を作っていると思わず、屈辱的な気持ちを隠せなかった。親のせいと考え、学生時代に打ちこんだスポーツで海外から取り寄せていたサプリを原因と疑っては含有成分をひたすら調べた。「自分の逃げ道をとにかく作りたかった」。夫婦の会話は減り、最終的には考えるのも嫌になった。 「(無精子症の)判明からAIDに進むまでが一番つらかった」と妻は振り返る。「本当に子どもが欲しいのか」「血縁が本当に重要なのか」夫婦で話し合いを重ね、養子縁組やAIDの説明会に足を運んだ。選択肢は頭文字で呼び合い、帰り道や外出先でも話題に出しやすくする工夫をした。