<ドル覇権への挑戦>BRICSが仕掛ける共通通貨圏、トランプの反応は“過剰”なのか?
徐々にフェードアウトする中国
もちろん、以上の議論はドル一強体制の綻びに関し、強いて言えば指摘できる弱点を挙げたまでだ。依然としてドルを基軸通貨とする国際金融体制が続くというメインシナリオに大きな揺らぎがあるわけではない。 例えばペトロダラー体制が崩れると言っても、サウジアラビアの通貨(リヤル)はドルペッグ制で管理されている。ペトロ人民元体制への移行を睨むならば、ペッグ対象をドルから人民元へ変える必要がある。それが一足飛びに難しいとしても、ドルおよび人民元を含むバスケット通貨へ移行する段階などを経るだろう。 現実的には原油取引における決済通貨比率を参照にして調整されるだろうか。いずれにせよ通貨制度の変更は一朝一夕に進む話ではない。 しかし、一朝一夕に進まずとも日進月歩で進むという理解もまた、必要ではある。中国の米国債が依然大規模であることは上述したが、確かに金額としては大きいものの、徐々に、しかし確実に減少しているのも事実である。
中国の米国債保有額は13年には約1.3兆ドルまで積み上がっていたが、今年9月時点では7650億ドルだ。約10年で4割も圧縮されたことになる。この間、約1.1~1.2兆ドルで高止まりしている日本とは対照的である(図表(4))。 これが意図を持った減少傾向であるのはほぼ間違いないだろう。代わりに外貨準備に金(ゴールド)の占める割合は目に見えて上昇しており、統計が取得可能な15年6月から24年9月までの間に約1.7%から約5.4%へ急騰している。 一方、米国債の割合は同じ期間に約34%から約22%へ低下している。実際のオペレーションを知ることはできないが、22年までの漸減傾向は再投資停止という自然減の体裁を取っていた可能性が窺われるとしても、22年以降の減少ペースは実際の売買を伴った疑いが抱かれるほど早いものである。米国債相当の金融資産としてとりあえずは金と置き換えているという運用者の意図が透ける。 中国がドル一強体制からフェードアウトを図っているのは間違いない。覇権通貨の交代はある瞬間に非連続的に起きるのではなく、「気づいたらそうなっていた」という取引慣行の中で決まっていくものだろう。その意味では最終的に人民元の地位がどこまで到達するかは不透明としても、その歩みは確実に進められている。