0-100km/h加速2.5秒は歴代コルベット最速タイム! シボレー・コルベット初のハイブリッド・モデル、イーレイにモータージャーナリストの佐野弘宗が試乗 目標は“世界一のGT”
決してエコなコルベットではありません!
クルマのカテゴリーを問わず、容赦なく襲う電動化の波は、ついに、アメリカを代表するスポーツカーをも飲み込もうとしている。果たして、コルベットはその荒波を受け止めることができたのだろうか。モータージャーナリストの佐野弘宗がリポートする。 【写真49枚】コルベットに新種誕生 ハイブリッドモデルのE-RAYとはどんなコルベットなのか? 詳細画像で確認する ◆ガソリンがぶ飲みスポーツカー コルベットのような、ガソリンがぶ飲みスポーツカーの代名詞的存在(失礼!)ですら電動化の波を回避できないのが、今という時代だ。史上初の電動=ハイブリッドのコルベットはE-Ray(イーレイ)と名づけられた。いうまでもなく、伝統のサブネーム(ただし、日本の正式商品名には使われない)である「スティングレイ」をもじった命名だ。 E-Rayの電動システムは良くも悪くもシンプル。というか、電動化度合いは最新ハイブリッドとしてはライト=軽微。新たに追加されたのは、基本的にフロント・モーター(最高出力162ps、最大トルク165Nm)と1.9kWhのリチウムイオン電池だけだ。パワー源となる6.2リッターV8OHVエンジンの、502ps、637Nmというスペックも従来どおり。8段DCTのレシオにも変更はなく、リアのエンジン周辺は普通のエンジン車とまったく同じだ。 前輪をモーター駆動するミドシップといえば、ホンダの2代目NSXやランボルギーニ・レヴエルトがある。ただ、ホンダやランボの前輪が左右独立2モーター駆動なのに対して、コルベットは1モーター。これらのように、フロントの左右トルクベクタリングで猛烈な曲がりを実現するような設計思想ではない。 また、E-Rayはハイブリッドといっても、エンジンとモーターを変幻自在に使い分けて走るわけではない。ご近所に配慮したEV走行(最高72km/h、最長6.4km)も可能だが、そのためには最初からEV専用モード(ステルスかシャトル)でパワートレインを起動しなければならない。そこで電池が底を尽きかけたり、負荷が高まるとエンジンが始動する。いったんエンジンがかかると、パワートレインを再起動しないとEV走行には戻らない。つまり、EV走行はあくまで緊急用なのだ。 ◆エコなコルベットじゃない ツアーやスポーツ、そしてサーキット……といった従来どおりの走行モードで走るときのE-Rayは、アクセル開度や速度や舵角、タイヤのスリップなどを検知しながら、前輪モーターにも駆動配分する。いわば、後輪駆動ベースのオンデマンド4WDなのだが、アクセルを深く踏み込んだ瞬間以外のフロント配分は全体に控えめな印象だ。とくに操舵時にはフロント配分を極力控えて、安定性より回頭性を優先するあたり、いかにもスポーツカーらしい。 もちろん、条件が整うとモーターもフル稼働する。そんなときのE-Rayの0-100km/h加速は2.5秒! これは歴代コルベット最速タイムだそうだが、そもそもゼロヒャク2秒台なんて、純エンジン車には数えるほどしか存在しない。 ただ、そんな怒涛の瞬発力とは裏腹に、E-Rayの乗り味はコルベットのなかでも、もっとも洗練されている。Z06などと共通のワイド・ボディと20/21インチ・タイヤを組み合わせたE-Rayは、そもそものシャシー能力がすこぶる高い。クーペ比で140kgほど重くなっているが、前後重量配分は改善。さらに、センタートンネルに詰め込まれたリチウムイオンが、ボディ剛性向上に寄与している可能性も高い。 ……といったもろもろの恩恵なのか、E-Rayの市街地や高速での乗り心地は、今あるどのコルベットよりフラットで快適だ。控えめな駆動配分もあって、通常時はいかにもミドシップらしい軽快さであるいっぽう、V8の大トルクを存分に解放しても絶大な安心感に包まれるのは、4WDのおかげというほかない。 モーターがフル稼働するような激しい走行下でのE-Rayの燃費は、標準のコルベットより良好なケースがあるらしい。しかし、本国のカタログ燃費値は、E-Rayだからといって燃費がいいわけではない(笑)。いっぽうで、4WDならではの特性を生かして、E-Rayは雪道での操縦性もきっちり開発されたとか。 E-Rayの生まれたきっかけは、来たるべき環境規制をクリアするためだが、かといって単純にエコなコルベットでもない。開発目標は“世界一のGT”で、走る場所や天候を選びたくないオールラウンダーのための新種コルベット……と捉えたほうが、このクルマの本質に近い。 文=佐野弘宗 写真=茂呂幸正 (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部