27年前に書かれた2075年の近未来日本と現代日本との酷似に屈服せずにいられない。ブレイディみかこが2024年の今こそ読むべきと断言する理由
あまりに悪名高いので、トランプ本人は距離を置きたがっているようだが、このプロジェクトは、「米国を急進左派の支配から救う」ことを目的とし、対気候変動規制の撤廃や勤労者保護の縮小、トランプ氏への忠誠心を選考基準とする公務員の入れ替え、教育省の解体などラディカルな米国政治の再編成を提案する。さらに、DEI(多様性、公平性、包括性)に反対する立場を鮮明にし、人工中絶規制の強化、ポルノの禁止などが含まれている。 トランプが指名した副大統領候補のJ・D・ヴァンスは、民主党のハリス大統領候補について「子どものいない女性」と発言していたことで話題になったし、「閉経後の女性の存在意義は孫の育児を手伝うこと」と述べた音声も発見されて女性たちを怒らせた。こうした言葉を発したヴァンスは、70代や80代の政界の長老ではない。まだ40歳の若手議員だ。彼のようにWOKE(社会的不公正、人種差別、性差別などに対する意識が高い人々)が米国をダメにしたと考える保守派は多い。WOKEへの反動として「いつの時代なんだよ」というようなウルトラ保守思想が支持を広げ、「プロジェクト2025」はそうした思想を政策に落とし込んだものだ。 ところで、J・D・ヴァンスは、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』という自伝を書いて有名になった人だ。同書の中で彼は、産業の衰退が進む米国のラストベルトの貧しい地域で育った自分の生い立ちを赤裸々に描いた。 離婚と結婚を繰り返し、薬物に依存してシングルマザーになった母親に振り回された幼少期。育児放棄する母親のもとから離れ、祖母と暮らすようになって彼は家族愛や道徳を教わり、勉強して軍隊に入り、大学に行って弁護士になるという、いわゆるエリート層への仲間入りを果たした。彼のように荒廃した貧しい地域で育った人が、保守的な家族観に基づいた社会を構築しようとする姿は、『斎藤家の核弾頭』に登場する日本が辿った道のりとよく似ていないだろうか。 とはいえ、本作の日本と現代の米国には大きな違いがある。米国はトランプという独裁的な人物を使ってウルトラ保守的な政治を実現しようとしているのに対し、2075年の日本は、ある極めて日本的なシステム(日本の人々が大好きなシステム)に依拠することによってそれを実現しているからだ。本作にはこう書かれている。