誰もが、「親になる」というテーマに悩みを抱えている――「母にはならない」社会学者と考える、選択の自由と少子化問題 #性のギモン
「母親になりたくない」という女性なんて、私一人しかいないと思っていた
――2003年から「親になりたくない男女に関する研究」をはじめたそうですが、なぜこのような研究テーマを持ったのですか? 「私は16歳のときから、自分は母親にならないと決めていました。学校で友達が、いつか母親になるとか、子どもは何人などと話しているのを聞いて、それは私のかなえたい夢でも、未来でもないと感じていました。でも、それは孤独なことでした。イスラエルで『母親になりたくない』という女性なんて、私一人しかいないと思っていたのです。当時はまだ今ほどインターネットも発達していなかったので、同じような考え方や気持ちに触れることはほとんどありませんでした。もちろんこの研究は、決して私の復讐でも言い訳でもありません。世間で言われていることに関連して、自分自身の周囲で起きていることに興味をそそられたのです。修士課程からこの問題を研究テーマにしたのは、そんな自分の体験があったからです」 ――この研究を通じて、あなた自身の人生観、結婚観に変化はありましたか?
「今も結婚願望はありませんし、母親になりたいとも思いません。私は今46歳ですが、35歳をすぎてからは、年をとるのが本当に楽しいと感じています。自分の生き方、人生に心から満足しているのです。現在は、また別の調査を行っています。イスラエルの、母親にならなかった60歳から86歳までの高齢女性たちにインタビューをしています。イスラエルで母親にならない決断をした女性の歴史がある。偏見は多かったはずで、きっと孤独で悲しい思いをしたことでしょう。周囲の人の意見ではなく、直接会って、本人の言い分を聞きたいのです」 ――3月8日は、女性の生き方を考える「国際女性デー」です。世界中の読者に、メッセージをお願いします。 「『母親の後悔』を話題にすべき大切なテーマだと感じてくれたすべての方、一人ひとりに感謝します。たとえ否定であっても、激しい怒りを感じたとしても、それでいいのです。そして、さまざまな社会集団に属する女性たちの多くが、もっと自由に生きられることを願っています。男性も同様です。すべての人が解放されるべきです。そうでなければ自由な社会は実現しません。『女性らしさ』『男性らしさ』の議論も、社会の問題ですよね。視点を変えてみればどうでしょう。私たちの誰もが、まだ本当の意味でジェンダーの問題から解放されていないのです」 ___ オルナ・ドーナト イスラエルの社会学者・社会活動家。テルアビブ大学で人類学と社会学の修士号、社会学の博士号を取得。2011年、親になる願望を持たないユダヤ系イスラエル人の男女を研究した『選択する:イスラエルで子どもがいないこと(Making a Choice : Being Childfree in Israel)』を発表。2016年に刊行の『母親になって後悔してる(Regretting Motherhood: A Study)』(新潮社、邦訳は2021年)は、世界15か国で翻訳された。