誰もが、「親になる」というテーマに悩みを抱えている――「母にはならない」社会学者と考える、選択の自由と少子化問題 #性のギモン
「イスラエルでも、主に子育てを行うのは母親です。母親は昼間、短時間だけ働き、そのあと子どもを幼稚園や学校に迎えに行く。変化は起きていますが、とてもゆっくりです。簡単には改善できない、根深い問題です。世界で起きていることを政治的、批判的な視点で見つめること、それがすべての変化の第一歩です。浮かんでいる小さな問題をつぶしていくだけで解決できることではありません。女性や子どもとの関わりについての深層心理の変化、意識の変革が必要です。それは、資本主義、家父長制、異性愛規範社会に挑み、疑問を呈することです。数年では変わらないでしょうね」
政府は望まない人にまで出産を強いることなく、少子化に対処する努力をすべき
――イスラエルの合計特殊出生率はOECDの中で最も高く、3.01(2019年)です。対して日本の少子化は進むばかりで、経済的な理由から母親になることをためらう女性もいます。岸田首相は「異次元の少子化対策」をアピールしていますが、この日本の状況をどう思いますか? 「イスラエルでは、経済的理由で子どもを持たないという考えは良く思われません。なんとかなる、子どもがお金の恵みを連れてくると考えられています。子どもが1人や2人という家庭は少なくて、非宗教の家庭の多くは3~4人、信仰心の厚い集団は6人以上、12人という家庭もあります。産みたい人が産めないという社会は、政府や国家が、親と家庭をもっとケアする必要がありますね。しかし一方で、『親になることが義務だ』という考えを変える必要があります。親にならなくてもいい。両方の道があるのです」
――女性の多様な生き方の選択は、社会的にも広がりつつあります。同時に、少子化の問題も浮上しています。女性の選択の自由は、少子化問題の改善と両立できるのでしょうか? 「少子化は、私たちの体を通して解決できるとは限りません。出生率の減少を受け入れながら、政府は、望まない人にまで出産を強いることなく、この状況に対処する努力をすべきです。強制されて母親になれば、苦しみが生まれます。それは女性も男性も、子どもにとってもつらいことです。いつか、時間・お金・支援など、すべてがバランスよく、親になるための条件が整ったとき、もしかしたらもっと多くの人が、自分の意思で子どもを持つかもしれません。それでも、母親になりたくない女性はいます。望まないのなら、ノンマザーのままでいることを許されるべきです。子どもを持つも持たないも、個人の選択です。とてもシンプルなことなのに、複雑に見えるのですね」