千賀滉大の今季中の復帰はあるのか? 高まる「ミラクル・メッツ」の機運
【勢い盛り返す流れのなかで】 しかし、こんな厳しい状況に置かれながら、メッツは印象的な「ミラクルラン」を開始するのだからわからないものである。 先発投手陣はショーン・マナイア(11勝5敗、防御率3.43)、ルイス・セベリーノ(10勝6敗、防御率3.74)、デビッド・ピーターソン(9勝1敗、防御率2.75)らが奮闘。打線もMVP候補と目されるようになったフランシスコ・リンドア(30本塁打、26盗塁)、主砲ピート・アロンソ(31本塁打、79打点)、若手成長株のマーク・ビエントス(打率.284、24本塁打)らを軸に必要な得点を叩き出してきた。 6月3日以降、54勝30敗の快進撃。もともといい意味でも悪い意味でも評価を覆すのが得意なチームだが、前評判が高くなかった今年も劇的な形でシーズン終盤を迎えている。この追い上げのおかげで、千賀にも復帰登板のチャンスが出てきたのである。 シーズン残り20試合を切った今、千賀がマウンドに戻ってくるための条件はふたつ。まずは今後もセットバックを経験することなく、順調に回復し、調整を続けること。そしてチームがこのまま好調を保ち、プレーオフ出場への希望を残し続けること。その両方が継続すれば、60日間の故障者リストからの復帰が可能になる9月25日に復帰の声がかかるのではないか。 「先発としてもいきなり5回、6回、投げられるかと言われたらその時間はないと思います。僕自身、どうなるかももちろんわからないです。ただ1イニングでも多く、思いきり投げられる準備をして帰ってくるということは、全員の共通の希望ではあると思う。そこを目指していこうと思っています」 千賀自身のそんな言葉が示唆するとおり、復帰を果たすとすればリリーフの役割を任される可能性が高そうだ。100マイル(160キロ)近い速球と"お化けフォーク"はブルペン登場でも生きるに違いない。メッツには2022年に防御率1.31、62イニングで118奪三振という凄まじい投球をしたエドウィン・ディアスという守護神がいるが、千賀がその前で投げられることになったら心強い。 「まず(千賀に)貢献できる状態でマウンドに戻ってほしい。ブルペンか、先発か、役割に関してはそれからだ。その選択ができるのを楽しみにしている」 ここまでの紆余曲折を思い返せば、デビッド・スターンズ編成部長の言葉が極めて慎重だったのは理解できる。あくまで、すべてがうまくいけばという条件付き。依然としてナ・リーグ内でもダークホース扱いのメッツが、最後の最後で秘密兵器を手に入れるようなことになれば面白くなる。 少々気が早いが、こんな想像を巡らせてみてほしい。身も凍るような緊張感に包まれるプレーオフの終盤イニング。接戦のゲームのなかで、フィラデルフィア・フィリーズのブライス・ハーパー、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平、ムーキー・ベッツといった強打者たちへの対策として千賀を投入できるような流れになれば......。"苦しい1年"の最終盤にハイライトを生み出せば、千賀はニューヨークの人々を今からでもエキサイトさせることは可能なはずである。
杉浦大介⚫︎取材・文 text by Sugiura Daisuke