古希を迎える太鼓ソリスト林英哲 70代どう生きるか
現代音楽でも前例のない太鼓ソリストとして国際的に高い評価を得ている林英哲(はやし・えいてつ)。1952年広島県出身で、2月2日に70歳となり古希を迎えるがソロ活動40周年のいまもなお、ベストコンディションを維持し体力を要する演奏活動にあたる。そのエネルギーはどこからくるのか。70代の10年間をどう生きようと考えているのか。リモート取材で聞いた。 【写真特集】前例なき林英哲の太鼓芸術
体と相談しながら“頂いた体を最大限に生かす”
林が国際舞台へ躍り出るきっかけをつかんだのは1976年、24歳の頃だった。アメリカで小澤征爾が音楽監督を務めるボストン交響楽団との共演が実現したのだ。それを機に活動の幅を広げ、1984年には太鼓ソリストとして初となるカーネギー・ホール出演を果たし、2000年にはドイツ・ワルトビューネでベルリン・フィルと共演し2万人を超える聴衆を魅了した。世界の第一線で活動を続ける林だが人生100年時代と言われる昨今、70代の10年間をどのように考えるのか。 「ありがたいことに両親に丈夫な体に産んでもらって、この歳でも元気に演奏が続けていられます。この年齢でこれだけ重労働の演奏業をやっているのは、世界中で私だけと思います」 白い歯を見せる。太鼓の演奏自体が健康の助けにもなっているようだ。 「しかし永遠にこのまま、というわけにはいかないのは当然で、今まで以上に日々の鍛錬を惜しまず、しかし無理をせず、体と相談しながら『頂いた体を最大限に生かす』つもりでやって行きたいと思っています。今までもこれからも、食事と運動、これが基本です」
1時間半の演奏を支える足腰 稽古前に必ずやる基本
立ちながら1時間半演奏する林だが、演奏に耐え得る体力づくりはどのような工夫があるのだろうか。 「足腰が基本なので、若いときから走り込みをしていました。今はもうそんなに走りませんが、稽古前は『千回ジャンプ』『百回腕振りスクワット』『百回上体ひねり』などの体操をして、プラス『声出し』、これを必ずやります。太鼓演奏は足腰だけでなく全身のバランス感覚と筋力が必要なので、体全体の機能をフル活用するという意識が大事です」 また林は60代で初めて携帯を持ち、最近初めてスマホを持ったという。そこには年齢なりの考えがあった。 「私はもともと浮世離れしている人間で、携帯電話で常に誰かと繋がっているという状態が正直、嫌でした。スマホも自分には縁がないつもりでしたが、社会がそれを許さなくなった、ということです。好きな美術展や劇場に行きたくても、パソコンやスマホがなければチケット入手さえ出来なくなった。もうちょっと年齢が進むと、そういう操作に対応できなくなってしまう。それなら今のうちに、ということです。クリント・イーストウッド映画などにスマホにイラつく老人が出てくるのを見ましたが、世界中の高齢者にとって今は本当に残酷な時代になっていると思いますよ」