古希を迎える太鼓ソリスト林英哲 70代どう生きるか
コロナ禍で苦境も新しい楽しみ方を工夫
しかし世界はいまコロナ禍に見舞われている。林の70代も新型コロナによるパンデミックと無縁というわけにはいかない。海外の仕事が真っ先になくなり、国内の仕事も次々と全滅状態に陥り弟子達もアルバイト生活をせざるを得なくなってしまったと嘆くが、苦境から見出したものもあるようだ。 「感染に用心して体さえ元気ならなんとか乗り越えられるはず、とも思っていましたが、このウイルスのすごさは金持ちでもビッグ・ネームの人でも、そうでない人でも、世界中の人間がすべて同じ条件になった、ということです。世界中のどんなパフォーマーも全員、人前で演じられなくなった。この時の連帯感は、すごかったですね。みんなリモートで共演して励まし合いましたから。やっとオーケストラと生演奏の再開ができた時、楽団員の人達は涙ぐんでいました。コロナはひどい経験ですが、逆に舞台や演奏ができる喜びに気づかされた、という面もあります。困難を完全に乗り越えるのはまだ先でしょうが、喜ばしいことが待っている、と思ってなんとか頑張ってしのいで行きたいです」 芸事全般が好きで芸術への造詣も深い林だが、コロナ禍で新しい楽しみ方も工夫している。 「昔から劇場や美術館、本屋、CDショップに行くのが大好きなのですが、コロナでままならず、『そんなもの見るかっ』と思っていたネット配信サービスについに加入してしまいました。ホームシアター・スピーカー、プラス高画質で、もう映画三昧です。テクノロジーの進化に、ものすごい時代の変化を実感しています」
芸術を日常に取り入れるヒントは
2月にはソロ活動40周年を記念した特別公演『「祝歳の響宴」─絶世の未来へ』を東京・サントリーホールで開催する。藤舎名生、藤舎呂悦、山下洋輔、麿赤兒といった各界を代表する才能をゲストに迎えてのコンサートだ。70代、コロナ禍にしてなお前向きに進む林だが、最後に芸術を日常に取り入れるヒントについて聞いてみた。 「人為的な芸術が苦手な人でも、空がきれいだとか、海がきれいだとかは思うはずです。それでいいんじゃないでしょうか。私は毎日、必ず空を見て『なんてきれいなんだろう』と、ほぼ毎日感動します。空は時刻によって変わるし、月や星も出るし、飽きることがありません。人の作り出す芸術は、表現(モノ)を見るというより、その人(作家)に興味がわけば、より身近になります。人間は、一部例外をのぞいて最終的には人間にしか興味が行きませんから、作家に感情移入できれば、その作品も受け入れられると思います」 (文・志和浩司)