大阪に会話禁止カフェも、デジタルネーティブ世代がいま最も求める贅沢、それは「静寂」
米スターバックスは1000軒以上で吸音する天井デザインを導入すると発表、「静かなレストラン」ガイドなども話題
街を行き交う車の騒音や落ち葉を吹き払う機械の音、スマートフォン(スマホ)から四六時中流れてくる動画の音声など、現代に生きる私たちを取り巻く音はうるさくなる一方だ。こうしたあふれんばかりの騒音から逃れようと、今では手に入れるのがどんどん難しくなっている環境、つまり「静寂」を求める人は多い。 ギャラリー:人類が地球を変えてしまったと感じる、空から撮った絶景 写真23点 「人は、こうした騒音の量や過剰な刺激に適応するようにはできていません」と、ノルウェー在住の心理学者で静寂を専門に研究するオルガ・レーマン氏は考えている。騒音公害、具体的には85デシベル(騒がしいレストランレベル)を超える音に過度にさらされると、難聴や高血圧、ストレス、不眠症の要因になる恐れがある。 喧騒(けんそう)から逃れ、静寂を求めて旅に出る人もいるが、自宅で静かに過ごす時間も大切だ。 「日々の生活で、わずかでも静かな時間を持つことは、ストレスを調整し衝動を抑えるのに有効です」とレーマン氏。とはいえ、生活から音を完全に消すことを目指しているわけではなく、日常生活のごたごたと平穏のバランスを取るのが大事だという。生活の中に静かな時間を取り入れる動きが広がりをみせている今、そうしたバランスを手に入れるのは可能だ。
静かさを求めるカウンターカルチャー
静寂を求める動きは、特に若い世代の間でトレンドになっている。例えば、2023年、TikTok(ティックトック)ではサイレントウオーキングが大流行するという現象が起きた。ポッドキャストや音楽、通話などを一切遮断して、何にも邪魔をされずに散歩することの大切さを、クリエーターたちは熱く語った。 スマホ以前の世代からは揶揄(やゆ)する声もあったが、こうした活動が人気を博したのは、デジタルネーティブ世代が騒音のない時間にひどく飢えていることの現れといえる。 なかには、数日間静かに瞑想する、あるいは「ダークネス・リトリート」(暗闇の中で数日間過ごすこと)を実践するなど、より思い切った手段に出る人もいる。後者については、米プロフットボールNFLでクォーターバックとして活躍するアーロン・ロジャース が米オレゴン州のスカイ・ケイブズ・リトリートで体験したとして大きな話題となった。 このように感覚を遮断する体験は、聴覚だけにとどまらない。完全な暗闇の中、ほぼ1人の状態で数日間過ごすことで、参加者に自己発見と内省を促すことを目的とする。こうした極端な方法が合う人もいるだろうが、「ちょっとしたことから始めるほうがいい、と個人的には思います」とレーマン氏は語る。 近所の公園や美術館、図書館で、IT機器などを持たずに10分間座っているといったシンプルなことでよい。瞑想やヨガに参加するのもよい。サイレントヨガのクラスであればもっとよいだろう。方法はどうであれ、静かな時間は、必ずしも孤立状態とイコールではない。 レーマン氏はこう語る。「私たちは今、疎外感と孤独感というパンデミックの中にいます。静かな時間のマイナス面といってもいいかもしれません」