大阪に会話禁止カフェも、デジタルネーティブ世代がいま最も求める贅沢、それは「静寂」
街の「音の風景」を改善する
デジタル・デトックスにも静かな隠れ家的場所にも限界はある。世界の人口の半分以上が住む騒々しい都市部では特にそうだ。世界保健機関(WHO)は、騒音公害について、大気汚染に次ぐ、健康問題を引き起こす環境要因に挙げている。都市生活は慢性的に85デシベル以上の騒音にさらされていることを思えば、驚きでも何でもない。 また、米国立公園局の試算によると、騒音公害は30年ごとに2倍以上に増えているという。米国の人口増加を上回る速さだ。 「交通の騒音は、都市が必ず抱える大きな問題です。電気自動車(EV)を推進する人が多いのはそのためです」と、建築家兼都市音響プランナーで、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで講師を務めるフランチェスコ・アレッタ氏は説明する。EVは、住宅地での低速走行ではガソリン車よりもはるかに静かだ。幹線道路での騒音源はタイヤノイズであることから、「都市当局では、アスファルトに静粛性の高い技術を採用している」とアレッタ氏は言う。 残念ながら、政府レベルの対策には時間と煩雑な手続きを要する。とりわけ、米国のように、騒音に関する研究も規制も十分ではない場所ではなおさらだ。 しかし、都市部ではわずかながらも進歩の兆しが見えつつある。2023年、ニューヨーク市議会は、騒音カメラを設置し、市が定める85デシベル制限を超えた車両の追跡に乗り出した。また、ガソリンエンジン式のリーフブロワー(枯れ葉の清掃に使う送風機)の使用を制限する規則は、ワシントンDCからオレゴン州ポートランドに至る全米の都市部およびその近郊の騒音低減につながっている。 樹木も騒音対策に一役買っている。幹線道路の並木は、騒音を最大12デシベル低減する。また、ドイツのデュッセルドルフにあるオフィスビルの外側は3万株の植物で覆われ、ヨーロッパ最大の緑のファサードだ。こうした「生きた壁」は、騒音を吸収すると同時に、都市の熱も抑える。 静けさを求める社会の声に応えると思われるテクノロジーの1つとして、アレッタ氏はアップル・ウオッチなどのウェアラブル端末を挙げる。周囲の騒音レベルについて、ユーザーに注意を促す機能を持つ端末だ。「モニタリングを開始して騒音レベルがわかった瞬間に、すぐに行動を起こせます」とアレッタ氏。 また、英ウェールズで、クリーンな空気だけではなくサウンドスケープを保護する法律が可決されるなど、「最近の動きには期待が持てる」とアレッタ氏は言う。「こうした政策や新たな法律の制定は、潮目が変わりつつある良い兆候だと私は考えています」
文=Stephanie Vermillion/訳=夏村貴子