厳密な意味での「無限」の考えを数学に持ち込んだ天才・カントール。その天才の発想と非業の生涯とは
「無限ホテル」の怪現象とは
私自身がカントールの無限世界にふれた最初は、マーチン・ガードナーのパズル本だったように思う。そこにはユーモラスな漫画とともに無限ホテルが紹介されていた。 無限ホテルとは、文字通り、部屋が無限にたくさんあるホテルのことだ。数学者のダフィット・ヒルベルトが最初に思いついたといわれている。そんなホテルがこの宇宙にあるとも思われないが、とにかく、数学的にはそんなホテルが存在することが可能なのだ。 あなたは無限ホテルのレセプションで「ただいま満室です」と言われる。しかし、満室であるにもかかわらず、あなたがこのホテルに泊まる方法がある。
自然数には必ず「次」がある
なんと、全ての宿泊客に一つずつ部屋をずらしてもらうのである。つまり、今、1号室に泊まっている客は2号室に、2号室に泊まっている客は3号室に……1001号室の客は1002号室に……という具合に、「ご自分の部屋より1つ番号の大きな部屋にお移りください」と館内アナウンスを流せばよい。 部屋数が有限なホテルだったら、最後の客があぶれてしまうが、ここは無限ホテルなので、いくら部屋の番号が大きくなっても、必ず、1つだけ番号の大きな部屋が存在する。誰もあぶれることはない。そして、あなたは、空室になった1号室に泊めてもらえばよい。 これはもちろん、自然数には必ず「次」があるからこそ可能なのだ。 まあ、少しでも物理学的、建築学的、経営学的なセンスをもっている人なら、無限ホテルなんて変だと思うにちがいない。「有限の時間で無限に大きなホテルなんて建設できないだろう」、「無限ホテルの建設には無限の建材と無限の費用が必要である」、エトセトラ、エトセトラ。 でも、無限ホテルは数学的には可能なのだ。
竹内 薫(サイエンス作家)