山奥で出会った不思議な物売りが、とつぜん自らの腕を斬りつけ…江戸時代から続く「禁断のセールストーク」が凄まじかった
伝統芸能として生きのびてきた
もっとも、現代では職業としてのガマの油売りはもはや存在しない。薬事法という無粋な法律ができたため、薬はそう簡単には売れなくなったからだ。私がガマの油を買うことを思いとどまった理由はこれである。 現在ではガマの油売りは一種の伝統芸能として生きのび、イベントなどに出没している。私が目撃したのもこれだった。ガマの油売りの創始者とされる永井兵助の流れをくむという第二十代永井兵助と称する名人もいる(*)。 今でも筑波では「ガマの油」と称するものが売られているが、蟾酥は入っておらず、効能は「皮膚荒れを止める」などという常識的・市民的なものだ。 *細かいことだが、江戸の者は「長井兵助」、筑波は「永井兵助」だから字が違う。また筑波には、江戸時代に筑波の長井村にいた兵助という男がガマの油売りを始めたという言い伝えもあるが、文献などは残されていない。 ・参考文献 『筑波山がまの油物語』八木心一 崙書房
杉岡 幸徳(作家)