なぜ体操個人総合で橋本大輝は逆転で金メダルを手にすることができたのか…宿敵の中国選手が犯していた知られざるミス
だが、このピンチにも橋本は動じなかった。 「つり輪で少し技が認定されなかった。少し焦ったんですけど試合は何が起こるかわからない。後に集中して1本やろうと切り替えました」 橋本は続く跳馬でE難度のロペスを決めた。着地で乱れ右足が多くはみ出たが、14.700を出した。畠田氏は、「橋本選手は足の強さが特徴の選手。ロペスも外国人選手を優るダイナミックな高さと飛距離が出る。そこを評価されたのでは」という。 そして得意の平行棒で15,300の高得点をマーク。鉄棒での逆転劇の下地を作った。 19歳の金メダリスト橋本の何がどう凄いのか? 畠田氏は、橋本の強さを象徴したのが「あん馬」の演技だと指摘した。 「一番のポイントはあん馬。高得点を出したことが勝因だと思う。実は彼には不安があったと思う。これまであん馬で落ちることがあり、団体予選、決勝でも危なっかしい部分があったのだが、この日は、それが消えていた。国内大会も含めて、これまで開脚シュピンデルで、ひねった後の左手の入り方が遅れ、つき手の位置が落ちやすい場所にいくことが多かった。それがきっちりと修正されていた。練習と準備の成果であり今なお成長を続けている証拠だ」 対応、修正能力の高さは床の演技でも見られた。団体決勝でラインオーバーしたG難度「リ・ジョンソン」を個人総合では綺麗に収めてきた。 「日頃の練習を見ているわけではないので、あくまでも試合を見ただけの勝手な評価だが、まだ完成されていない成長力が強さだと思う。去年と今年の春先、そして五輪とまったく演技が違うほど成長している。リ・ジョンソンも1年前にはできていなかった。15点を越えた平行棒も最初は苦手だったのだ」 畠田氏は特に平行棒の演技に成長の跡が如実に出ていると指摘する。 橋本は平行棒のフィニッシュをF難度の「前方抱え込み2回宙返り1/2ひねり下り」で決めたが、当初は、足を開いていたという。 「今は足を閉じることができるようになりEスコアに9点台が出るようになった。ナゴルニーや肖若騰でも開く。足を閉じると着地がギリギリになり難しいのだが、どんどん貪欲に挑戦して習得したのだろう」 橋本はエースの内村航平がロンドン、リオ五輪と連覇した流れを継承した。 畠田氏は、両者をこう比較した。 「背が高くスタイルのいい橋本選手はさらに大きく見せるダイナミックで思い切りのいい演技が強み。内村選手も実際よりも大きくみせる演技で世界を制した。体つきは違うが、そこは似ている点。ただ2人の金メダルまでの過程は違うが、すでに体操の質は内村選手と同じところに近づいていると思う」 気になるのはパリ五輪での連覇である。