なぜ体操個人総合で橋本大輝は逆転で金メダルを手にすることができたのか…宿敵の中国選手が犯していた知られざるミス
バルセロナ五輪(団体銅)、アトランダ五輪と2大会に出場し、東京五輪の女子団体で5位に入る健闘を見せたメンバーの畠田瞳の父親でもある日体大・体操競技部副部長の畠田好章氏は、「鉄棒までの流れは想定内だったと思う。最後の点差は普通に演技をすれば勝てる点差。でも普通にやれるかどうかが問題で、そこをやりきった橋本選手の強さ、そして努力という準備をしてきたことが素晴らしい。日頃の練習から一番勝ちたいと思っている選手が勝ったということではないか」と絶賛。 その上で肖若騰が鉄棒で犯したあるミスが、最後に橋本の心理状態に微妙な影響を与えていたのではないかと分析した。 「肖若騰は興奮のあまり挨拶をしないというミスを犯していた。実は記録を見ると肖若騰にNDの減点0.3がつけられていた。体操競技には、演技を始める前と終わった後に挨拶するルールがあり、それを怠ると0.3減点される。特に国際大会ではシビアに見られ、その減点でメダルを取れない選手もいた。厳密には挨拶する前のガッツポーズも減点対象。14.0と14.3では、逆転優勝に必要なボーダーラインが違ってくる。橋本選手の場合、その方が逆にモチベーションが上がったのかもしれないが、凄まじいプレッシャーの中で、心に少しの余裕はできたと思う」 肖若騰は、この減点が響き、14.066に終わり、橋本の演技を前にリードを広げておくことができなかったが、結果的には、この減点がなくとも、橋本が世界の頂点に立っていた。 ピンチがあった。 最初の床でトップスタートを切り、2種目の得意のあん馬で15,166の高得点をマークして2位以下を引き離した橋本だが、3種目のつり輪は、得点13,533に終わり、肖若騰に抜かれ、孫イ(中国)と並び2位に転落した。着地で少しだけ後ろにずれたが、ノーミスの演技。長い時間、得点が出なかったが、審判団は「Dスコア」を5.6から5.3とした。10個あった技のうちのどれかの技を認定しなかったのだ。 「疑惑の減点」に日本チームはジャッジに確認を求める「インクワイアリー(質問)」を要求したものの結果は変わらなかった。 畠田氏は、「明らかなミスはなく、何が認定されなかったのか僕もよくわからない。おそらくだが、予選、団体と同じように演技をしても、“個人ではちょっと違う目で見るよ”というような国際試合でしばしば見られる採点競技ゆえの“体操あるある”だったのではないか。本来あってはならないことだが、アトランタ五輪の頃からなくならない」 畠田氏の“推測”によると最初の「後ろ振り上がり中水平支持」というE難度の技を「輪の中に体が入っていない」と判断されてD難度に“降格”。そうなると「上水平」となり、あとの「後ろ振り上がり開脚上水平支持」と重なり「この開脚上水平がなかったものにされたのではないか」という。それでも、その場合、併せて0.4点の減点となるため「0.3点の減点とは数字が合わずなお不可解」と畠田氏も疑念を示した。