睡眠中の脳の働きが「ひらめき」を生むのはなぜか?【】
【正解のリハビリ、最善の介護】#58 「親の認知症が進んだようで、夜、寝なくて困ります。昼はいつもうとうとしていて……。どうしたらいいのでしょうか」 認知症患者の「夜、寝ない」問題…介護する家族にアドバイスしていること ご家族からよく寄せられる質問です。 良質な睡眠はとても大切です。睡眠リズムが崩れると、気持ちいい生活が壊れて、思考が低下します。ホルモン的にも23時から3時までは睡眠がとても大切になります。さらに、高齢になると、睡眠時間は6時間程度ですので、23時から5時までは気持ちいい睡眠をとってもらうための治療が必要です。 今回は「睡眠の脳科学」についてお話しします。 1997年から3年間、デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所で脳卒中研究チームの責任者を務め、脳循環代謝の研究をしていました。その頃、時々不思議なことが起こり、まだ何も証明されていない“科学”がひらめくことがあったのです。 当時、自分が研究していた脳卒中科学で、「どうすれば脳梗塞になりかけた脳組織を救うことができるのか」について、脳循環代謝の機序からいつも考えていました。しかし、よくわかりませんので、とにかく世界中の論文を読んで科学を勉強したのです。面白いもので、どんなに難しい科学誌も3回読むと何となく理解できたような気になってきます。そして、たくさんの論文結果と方法論を勉強して、睡眠前にあれこれと考えて眠ると、ある朝、ひらめくことがあったのです。 なぜなのか、とても不思議でした。その経験から、どんなに難しいことでも、いつも考えていると何らかの解決策が見つかる習慣がつきました。ひとつの物事だけを考えるのではなく、いろいろなことを考えるのです。すると、時々何かがひらめくのです。ぜひ、みなさんも試してみてください。 ■脳を活動させていると認知機能が低下しにくい 2024年11月、富山国際会議場で第67回日本脳循環代謝学会学術集会が開催されました。友人の脳外科医で、富山大学医学部脳神経外科の黒田敏教授が会長を務めたため、私も参加して「攻めのリハビリテーション医療と脳血行再建術における脳循環代謝評価の意義」を発表しました。 その学会の特別講演で、井ノ口馨先生が「睡眠脳による高次情報処理」をテーマにお話しされました。井ノ口先生は富山大学大学院生命融合科学教育部で、分子脳科学を専門にされています。とても興味深い内容でした。脳は睡眠中でも能動的に情報を処理しています。その睡眠中の大脳皮質活動が明らかになったのです。「Nature Communications 2024」に発表されました。 脳は、以前に取得した記憶をもとにして、学習していない推論知識を導き出すことができるそうです。なんと、寝ている間に、勝手に推論知識をつくるといいます。夢を見る人は多いと思いますが、ある事柄についてよく考えていると、推論知識が科学になることがあります。その機序は、以下のように説明されました。 われわれの睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2つの睡眠段階に分類され、ノンレム睡眠とレム睡眠は約90~120分周期で一晩に3~5回繰り返されます。まず、ノンレム睡眠が散在している記憶を整理し、次に、レム睡眠が整理された記憶から推論知識を計算するのです。つまり、覚醒時には実現が困難な情報処理を潜在意識下の脳が行うことが明らかになったのですから、驚きです。 入眠前に、あれやこれやと考え事を思い巡らすと、翌日、目覚めた時に良いアイデアを思いつく科学が証明されたのです。やはり、科学はとても楽しくて素晴らしいと思います。 睡眠中の処理情報は潜在意識下に存在します。それがリラックスしている最中に意識に上がることがあります。そう、リラックス時にひらめくのです。つまり、勉強して、いつもいろいろと考えていることが大事なわけです。そうすると、勝手にレム睡眠で推論知識がつくられて、ひらめくことにつながるというわけです。ひらめく時間のためには、その人その人に適したリラックスの時間を持つことがとても大切なのです。 いろいろ考えて夢を追っている人は、睡眠中にも脳は盛んに活動しています。脳を活動させていると、認知機能も低下しにくくなります。認知機能の低下を予防するためには、いろいろと興味のある物事を考え続けること、そして人と話して孤立しないこと、人との交流を楽しむことが大切です。ですから、ひらめきがある間は大丈夫だと思われます。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)