「現在バイアス」を乗り越えろ!未来の自分を救う「コミットメント」の力
どんな目標にするかは完全に自由だったが、ひとたび目標が決まったら、そのコミットメントには拘束力が伴うことが条件とされた。つまり、目標額に到達するか、目標の期日になるまでお金は受け取れないということだ。 1年後、研究グループがコミットメント口座を開設した貯蓄者たちの平均預金額を、通常口座を持つ対照群と比較した結果、コミットメント口座の貯蓄者のほうが81%も高かったことがわかった。 ● 自分の意志の弱さを知っているなら 未来の自分の行動をいま縛るべき われわれがこの研究に注目したポイントは、被験者がだれひとりとして口座開設を強制されていなかったことだ。実際、だれも口座を開設しなかったとしても不思議はなかった。被験者たちには金銭的インセンティブはいっさい与えられていなかったし、急な出費に対応できなくなるという不都合もあり得たからだ。 それなのに、コミットメント口座開設の選択権を与えられた被験者の4分の1から3分の1が実際にコミットメント口座を選択している。これほどの人たちがコミットメント口座を開設しようと考えたこと自体、注目すべき発見であった。なぜなら、一定数の貯蓄者が、自分の意志の弱さゆえに、未来の選択を担保するのが難しいのを十分に認識していたことになるからだ。
よくよく考えてみると、われわれも日常的にコミットメントデバイスを利用していることに気づく。子どもの部屋が散らかっていてイライラする親は、ただ単に片づけなさいと言うだけでなく、片づけることを子どもに約束させる。 トレーニングもパートナーと一緒にやれば、相手をがっかりさせたくない一心で挫折を免れるだろうし、半年後のハーフマラソンにエントリーすれば、嫌でもトレーニングをするだろう。 同じように職場でも、次の会議までに何をすべきかを同僚に発表してもらうことによって、彼らがそれを実行する可能性を高めているのだ。食料品のオンライン購入が増えてきた理由は、未来の自分の選好に合った商品の購入を自分に課し、現在の自分による衝動買いを回避するためだ、とするエビデンスもあるくらいだ。 さまざまな領域において、現在の自分は、未来の自分に対し誘惑に陥らないでほしいと考えていても、いずれ自分はその誘惑に陥ってしまうだろうということを、われわれは直観的に理解しているということなのだ。こうなるのを避けるには、未来の自分の行動についてコミットしてしまうのが効果的だ。目標を決め、それを達成するためのステップを明確にしたら、それらの達成にコミットしよう。
オウェイン・サービス/ローリー・ギャラガー/国枝成美