「現在バイアス」を乗り越えろ!未来の自分を救う「コミットメント」の力
被験者の学生たちをランダムにふたつのグループに分け、3日間の日ごとに観たい映画を全部で3作品選んでもらった。その際、どちらのグループにもある重要な条件を付した。 第1のグループには、その日ごとに観る作品をひとつ選んでもらった。つまり、このグループは、仕事から帰宅した人がその場ですぐに観る映画を選ぶのと同じ状況にしたのだ。 これに対し、第2のグループには、1日目に3日分の映画を選んでもらった。 どちらのグループも1日目については、その日に観る分をその日に決めたため、結果はほぼ同じであったが、2日目、3日目については異なる結果が得られた。第2のグループは、未来に観たいものをいま選択していたのに対し、第1のグループは常にいま観たいものをいま選択していた。 つまりこの実験は、学生たちに未来の選択をコミットさせることによって、彼らが、その場の衝動で選びがちなもの(『バットマンvsスーパーマン』)ではなく、本来意図していたもの(『シンドラーのリスト』)を実際に選択するかを問うものだったのだ。
結果は想定どおりだった。毎晩その場で作品を選んだ第1のグループでは、被験者の大半が3日間とも娯楽映画を選択した。これに対し、第2のグループでは、娯楽映画が多く選択されたのは1日目のみで、2日目、3日目については、どんな作品を観るべきかを学生たちがじっくりと考えるため、教養映画が選ばれやすいという結果となったのだ。 これはともすると、映画という分野についてだけいえる、取るに足りない実験と思うかもしれないが、決してそうではない。この実験は、われわれが未来のことをどう考えているかについて、実に多くのことを教えてくれる。 ● 「現在バイアス」のせいで やるべきことが先延ばしになる われわれが未来の「美徳」(教養映画、グリルチキン&サラダ、仕上げなければならないレポート)よりも、目先の「悪徳」(娯楽映画、ハンバーガー&ポテト、仕事中のネットサーフィン)を選びがちなのは、「悪徳のほうが多くの報酬をいま与えてくれるから」である。 これは行動科学で「現在バイアス」と呼ばれるもので、明日の大きな利益よりも今日の報酬を優先し、重要な意思決定や行動を先延ばしすべきでないとわかっていながら先延ばししてしまう心理特性のことだ。