なぜ水道水にフッ素を加えるのか、今も物議を醸す背景とは、専門家の見解は
虫歯への影響
発生率こそ低下しているものの、虫歯は依然として「小児期における最も一般的な慢性疾患のひとつであり、また忘れてはならないのは、完全に予防可能な病気であるということです」とモリス氏は言う。 虫歯は、子どもの通学、教育、食生活、そして健やかに成長するための全般的な能力に影響を及ぼすと、氏は述べている。 カナダのカルガリーでは、水道水へのフッ化物添加をやめてから、子どもたちの虫歯の状況が悪化したことが、2017年に医学誌「Public Health」に発表された論文で示されている。 歯の治療を手軽に受けられなかったり、治療費に苦労したりする社会的に最も弱い立場の人々にとって、虫歯は大きな負担となる。 フッ化物を水道水に添加するのは、「水を飲むだけで済む」費用対効果の高い予防策だと、レビー氏は言う。
フッ化物添加を巡る論争
フッ化物は、特に米国において激しい議論の的となってきた。1950年代には、これは米国人に毒を盛ろうとする共産主義者の陰謀だとか、砂糖業界が売上を増やすための策略だという意見も聞かれた。 水道水のフッ化物濃度の調整が初めて行われて以来、この物質は何度も強烈な反応を引き起こしてきた。 「水道水に何かを入れるというのは、一部の人たちにとって本能的に拒絶したくなる問題なのだと思います」とモリス氏は述べている。「必然的に、一部方面からは極端な意見が寄せられることになります」 「個人の自由に対する侵害だと感じるのでしょう」とペズーロ氏は言う。 モリス氏によると、ワクチンやシートベルトの義務化など、そのほかの公衆衛生に関する決定にも同様の反対意見は寄せられており、19世紀には、清潔な飲料水の開発に対しても同じような論争が起こったという。 科学者は常に疑問を持ち続けるべきだが、「公衆衛生のプログラムを少数意見に基づいて中断すべきではありません」と、モリス氏は言う。 ポリック氏もこれに同意する。「科学界の意見はおおむね、フッ化物の適切かつ賢明な使用を支持するという点で一致しています」
文=Melissa Hobson/訳=北村京子