なぜ水道水にフッ素を加えるのか、今も物議を醸す背景とは、専門家の見解は
安全な量を摂取する
フッ化物は骨にも自然に含まれている成分だ。 「人間でも動物でも、フッ化物が体内に存在しない脊椎動物はいません」と、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の歯科科学者ハワード・ポリック氏は言う。 長期的に4ppmを超える濃度のフッ化物にさらされると、骨が弱くなる「骨フッ素症」を引き起こす可能性がある。 4ppmというのは、世界保健機関(WHO)が推奨する1.5ppm、および米公衆衛生局が推奨する0.7ppmという基準を大幅に上回る値だ。 骨フッ素症を発症するほどのフッ化物を摂取するには、「お茶をとてつもなく大量に飲んだり、1日に歯磨き粉を何本分も食べたりしなければなりません」と、モリス氏は述べている。 どんな物質でも、大量に摂取すれば有害性を持つ。水でさえそうだ。「問題なのは物質そのものではなく、その量です」とポリック氏は言う。
フッ化物添加への反対意見
水道水に初めてフッ化物が添加されたときから、この物質に対する心配の声は上がっていた。一部の人々は、フッ素ガスが極めて有害だという理由から反対し、また歯周病の専門家らは、「人々が水道水に含まれるフッ化物を当てにして歯を磨かなくなる」ことを懸念していたと、ポリック氏は言う。 また、がんのリスクに関する懸念もあった。1990年の研究では、高濃度のフッ化物を与えられたラットで骨の悪性腫瘍が増加することが示された。しかし、人間の集団を対象とした50件以上の研究に基づく米公衆衛生局の報告書では、低濃度のフッ化物によって「ヒトにがんが発生する検出可能なリスク」はないとされている。 近年では、フッ化物にさらされることと子どものIQ(知能指数)の関連性をめぐる議論が巻き起こった。2021年の研究で、フッ化物の摂取が多いほど男児の発達指数(乳幼児のIQに相当)が低いという関連が示された一方、2023年のメタ分析(複数の研究を統合する分析)では関連性は認められなかった。 米国国家毒性プログラム(NTP)の報告書は、WHOの推奨レベルを超えるフッ化物が子どものIQに影響を与える可能性について「中程度の確信度」があるとしている。 ペズーロ氏は、フッ素に反対する研究の中には、研究の対象者が少ないものや、方法論に問題があるもの、既得権益を持つ組織から資金提供を受けているものがあると指摘する。確固たる臨床研究がなければ、「誤った情報、過剰反応、論争が延々と続くことになります」と氏は述べている。 2017年に米環境保護局(EPA)に対して起こされた連邦訴訟では、EPAが飲料水に4ppm未満と定めるフッ化物濃度の基準を引き下げるよう求められた。 2024年9月、裁判官は、フッ化物を添加した水が公衆衛生に害を及ぼすという確証はないものの、EPAは基準を見直さなければならないという判決を下した。 「EPAは現在、連邦地裁の判断を検討中です」と、EPAの広報担当レミントン・ベルフォード氏は述べている。