東京メトロの成長加速、カギは「私鉄連携」なのか? 上場後に広がる収益多角化を考える
規制緩和で広がる非鉄道事業
筆者の大塚良治(経営学者)は10月、日本経済新聞の取材を受けた。その際、東京メトロは他の私鉄と協力し、他社の沿線開発に参画することで、東京メトロ線の利用促進が進み、相乗効果が生まれると話した。今回は、この内容をもとに、東京メトロの成長戦略についてさらに詳しく解説する。 【画像】「やっぱすげぇぇぇぇ!」 これが東京メトロの年収です! 画像で見る(12枚) ※ ※ ※ 東京メトロ(東京地下鉄)は、2023年10月23日に東京証券取引所プライム市場に上場した。前身の帝都高速度交通営団が2004年4月1日に株式会社化してから約20年を経ての上場であり、長い時間がかかった。しかし、規制緩和を受けて非鉄道事業を着実に拡大してきたことが、今回の上場につながった。 前身の帝都高速度交通営団法第1条は 「帝都高速度交通営団は、東京都の区の存する区域及びその附近における於ける交通機関の整備拡充を図る為地下高速度交通事業を営むことを目的とする公法上の法人とす。帝都高速度交通営団は主務大臣の認可を受け前項の事業に関連する事業を営み又は之に投資することを得」(引用に際して、現代仮名遣いに変更) と定めており、非鉄道事業の実施には国の認可が必要であった。営団の非鉄道事業は、ビル事業や高架下店舗の運営管理など限定的なものであったのと比べて、東京地下鉄株式会社法第1条第2項は 「会社(東京メトロ)は、前項の事業(東京都の特別区の存する区域及びその付近の主として地下において、鉄道事業及びこれに附帯する事業)を営むほか、同項の事業以外の事業を営むことができる」 と定め、非鉄道事業を自由に実施できるように規制が緩和された。 これにより、東京メトロの経営の自由度は拡大した。今後は上場会社として、企業価値向上を求める市場からの声に、非鉄道事業を上場前よりも拡大することで応える必要がある。
乗客単価の低さ
2024年3月期の同社の有価証券報告書(有報)によると、同期の実績は次のとおりだ。 ・1日輸送人員:約653万人 ・1日当たり旅客運輸収入:約8.9億円 ・乗車効率:46% 営業路線の大半が東京23区に所在することが、同社の路線に対する旺盛な需要と安定した旅客運輸収入を生み出している。 JR上場4社および大手私鉄の20社のうち、客単価(1人当たり旅客運輸収入)の高い会社から見ると、 ・1位 JR東海:約2576円 ・2位 JR西日本:約485円 ・3位 JR九州:約455円 と続き、一方、20位は京王で約129円、19位は東京メトロで約136円、18位は東急電鉄で約138円となっている(詳細は表を参照)。 いずれも、2024年3月期の各社の有価証券報告書および運輸成績表のデータを基に、旅客運輸収入を乗車人員で割って算出した結果である。下位に位置するのは、 ・有料列車の運行がない事業者 ・路線距離が比較的短い事業者 ・運賃水準が安価な事業者 のいずれかである。東京メトロのビジネスモデルは、低い単価で大量の乗客を乗せて稼ぐ 「薄利多売型」 であるという実態が20社のデータから浮かぶ。