東京メトロの成長加速、カギは「私鉄連携」なのか? 上場後に広がる収益多角化を考える
不動産戦略のカギ
ただし、私鉄やJR沿線での不動産開発を行う場合、転入した住民が必ずしも東京メトロ線を利用するわけではないことに留意する必要がある。しかし、物件契約者に東京メトロ線の定期券割引券を提供するなど、利用を促進する施策を取ることで、東京メトロ線の利用を増やすことは可能だ。仮に契約者が東京メトロ線を利用しなくても、不動産事業自体の利益は増加するだろう。 また、東西線や南北線は比較的長距離であるにもかかわらず、有料座席列車が運行されていない。東京メトロにこの点について尋ねたところ、 「有料座席列車及び指定席の導入は現在検討していないが、今後もお客様のニーズや動向、直通他社との協議等も踏まえて判断する」 との回答があった。個人的な意見だが、東西線とつながる東葉高速線沿線や南北線と直通する埼玉高速鉄道線沿線で不動産開発を行う際、東京メトロ所有の車両を新たに導入し、有料座席列車を運行すれば、 「着席通勤できる沿線」 という新しいブランドイメージを築くことができるのではないか。 さらに、優秀な人材の獲得やブランドイメージの向上には、魅力的な職場環境や夢のある事業の創造が不可欠だ。まちづくり事業はそのための大きなポテンシャルを持っている。従業員のモチベーション向上や潜在的な人材へのアピールとなり、優秀な人材をつなぎ止め、さらに獲得することができる。例えば、小田急線海老名駅周辺の開発のように、 「テーマパークのようなまち」 を作り上げることも、東京メトロの財務力をもってすれば決して不可能ではない。
都営地下鉄一元化の現状と展望
2024年11月5日、有楽町線(豊洲~住吉)と南北線(白金高輪~品川)の新規区間の着工が発表された。有楽町線の新区間には途中駅が設けられる予定で、これにともない新駅周辺の開発が今後検討される見込みだ。魅力的な街づくりが進められることを期待したい。 今後、東京メトログループが沿線内外でまちづくりを拡大するためには、他の不動産会社への出資や企業の合併・買収(M&A)が選択肢となる。東京メトロの山村明義社長は日経新聞のインタビューで、「あまり手掛けてこなかったM&A(合併・買収)や出資を進めながら資本効率を重視した成長戦略を取るのが次期中計の骨格になる」と明言している(「日本経済新聞(電子版)」2024年10月24日付)。ただし、同社は 「現時点では具体的なM&Aや出資等に関する計画・構想はないが、他社の持つ知見や技術と、当社の持つ経営資源を組み合わせて共創することを通じて、新規事業の創出や鉄道事業の課題解決をより一層加速していきたい」(広報部) との考えを示している。 M&Aの対象としては、都営地下鉄の事業取得などによる「経営の一元化」も考えられるが、東京メトロは「2021年の交通政策審議会でも議論はなされておらず、東京都の『東京地下鉄株式会社の株式の処分の基本的な考え方』においても一元化については触れられていないことから、テーマになっていない」と述べている。一方で、 「サービスの一体化については、利用者の視点に立って進めており、今後も都営地下鉄と協議しながら取組を進めていきたい」(広報部) としている。