東京メトロの成長加速、カギは「私鉄連携」なのか? 上場後に広がる収益多角化を考える
客単価向上のカギは非運賃収入
客単価を増やす手段としては、主に次のふたつが挙げられる。 1.運賃値上げ 2.運賃以外の料金収入の確保 「1」が実現すれば、客単価の向上が期待できる。しかし、鉄道運賃の上限変更は認可制であり、簡単に実行できる施策ではない。また、値上げによる客離れの懸念もある。そのため、「2」が選択肢として浮上する。具体的には、定期外の旅客運輸収入を増やす策を講じることが重要となる。 先のデータをグラフ化した結果、客単価と定期外旅客運輸収入との間には、定期旅客運輸収入との相関関係よりも強い相関があることがわかった(図参照)。 2024年3月期の東京メトロの定期旅客運輸収入の割合は38.4%であり、定期外旅客運輸収入は 「61.6%」 を占めている。定期外旅客が競合路線に流れると、旅客運輸収入の減少が大きくなる懸念がある。東京メトロの1人当たり定期外旅客運輸収入は約175円で、定期旅客運輸収入の約100円の1.8倍弱となっている。24時間券などを除いた正規運賃で利用する定期外客の獲得は不可欠だ。 乗車人員が減少しても現状以上の旅客運輸収入を維持するには、現在20社のなかで最も低い1人当たり定期外旅客運輸収入をさらに引き上げ、客単価の向上と非鉄道事業の拡大を進める必要がある。
私鉄との連携強化
以上の問題を踏まえ、東京メトロの成長戦略を考えたい。まず、東京メトロ線の通勤・通学利用者の実態を確認してみよう。 通勤・通学利用者は主にふたつのパターンに分類できる。ひとつは、東京メトロ線の駅周辺に住む人々が、自宅と勤務先や学校の最寄り駅間を移動する「一次交通」として利用するケース、もうひとつは東京近郊の私鉄やJR沿線に住む人々が、都心のターミナル駅に到着後、東京メトロ線に乗り換えるか、直通列車を利用して山手線エリアに向かう「二次交通」として利用するケースだ。 実際、2023年度の東京メトロ線の各駅乗降人員データを見ると、他社線との接続駅かつ直通運転接続駅である渋谷駅は72万1112人、他社線との接続駅である池袋駅は50万0694人、相互直通運転を行っている小田急線との接続駅である代々木上原駅は26万7748人となっている。 東京メトロの2023年度の営業収益は約3893億円で、そのうち旅客運輸収入は約3240億円、全体の83.2%を占めており、鉄道事業が主要な収益源だ。しかし、人口減少にともない、都心と郊外を結ぶ私鉄やJR線の乗車人員が減少することが予想される。これにより、東京メトロの乗車人員や旅客運輸収入の減少に備えて、新たな事業の創出が求められる。 現状、東京メトロの非鉄道事業の営業収益は、 ・不動産事業:約137億円(全体の3.5%) ・流通・広告事業:約239億円(6.1%) ・その他:約37億円(1.0%) にとどまっている(東京メトロ「2024年3月期 決算説明資料」)。大手私鉄やJR各社は非鉄道事業の拡大を進めており、その主な内容は不動産、レジャー・ホテル、流通などだ。東京メトロも、これらの取り組みを参考にし、特に 「他の私鉄と協力」 して他社の沿線開発に参画することが有望だと考えられる。