課題山積の原発再稼働 スローガンだけでは進まない 首都圏の電気はどこでつくられているのか?
「一人の社員の不祥事が東京電力全体の評価につながります。地域の方から信頼され、私たちが運転するに値する人間であることを証明しなければなりません。そのためには私たちの『言行』が一致していることが、何よりも大切なのです」。今年で入社42年目を迎える東京電力柏崎刈羽原子力発電所の林勝彦副所長はそう話す。 【写真】「地域の会」の様子。住民の任期は2年ごとで、最長で10年在籍できる 柏崎刈羽原発は1カ所の原子力発電所として全号機合計出力が821.2万キロワットで、世界最大級だ。現在、1~7号機の全号機が停止中で、そのうち、6.7号機は2017年12月に新規制基準の適合性審査に合格した。だが、20年に他人のIDカードの不正使用などが発覚し、原子力規制委員会(以下、規制委)から事実上の運転禁止命令が出された。その後昨年12月には「自律的な改善が見込める状態である」として運転禁止命令は解除され、再稼働に向けた動きが本格化している。小誌取材班は7月、その様子を取材すべく柏崎刈羽原発を訪ねた。 「まずは津波を防ぐことが大切」 林副所長がこう強調するように、津波対策には念には念を入れている。発電所に到達する津波の高さは推定約7~8メートルだが、防潮堤の高さは海抜15メートル。全長は約2.5キロメートルに及ぶ。浸水を防げないケースも想定し、重要エリアでは水密化・止水処理も施されている。さらに、代替電源の多重性に加え多様性と分散配置を進め、電源喪失後も原子炉を冷却し続けられるよう、注水・除熱設備も手厚く配備している。 異常時を想定した訓練も欠かさない。今年6月には、想定外の地盤隆起が発生した場合の海水取水訓練を実施した。また、炎天下の中、アノラックやフルフェイスのマスクを着用しての放水訓練も行っている。取材班が訪れた日も放射性物質の拡散抑制などを想定し、放水砲から水を放射する訓練が行われていた。 「想定を超える危険に備える対策を考えることこそ、技術者の仕事だ」 福島第一原発(1F)事故後、林副所長は米国の原子力技術者にこう言われ、その言葉を胸に刻んでいる。ただ、柏崎刈羽原発は07年7月に発生した新潟県中越沖地震などで運転停止が相次ぎ、長いものではその期間が17年にも及ぶ。運転を経験したことのない社員も増えている。