課題山積の原発再稼働 スローガンだけでは進まない 首都圏の電気はどこでつくられているのか?
「訓練も大切ですが、運転中はスイッチ一つを操作するだけでも緊張感がまったく違う。私たちは危険・安全に対する意識を拡張し続ける必要があるのです」(林副所長) では、地元の人たちは東電の取り組みをどう評価しているのか。 柏崎駅仲商店街振興組合の植木秀実理事長は「東電の対策は『当然すぎるくらい当然なもの』です。そもそも『避難する』ということは『元の暮らしには戻れない』ということ。『万が一』は許されません」と話す。 長岡市原子力安全対策室の吉田孝行課長もこう語る。「新潟県は大豪雪地帯です。加えて、能登半島地震では津波や液状化の被害が出た地域もありました。災害を何度も体験してきているからこそ、有事に対する地元の方々の不安は大きいのです」。 さらに、特有の〝ねじれ〟がある。それは、柏崎刈羽原発が立地する新潟県は東北電力管内であり、柏崎刈羽原発で生み出された電力は、地元の新潟県には供給されず、東京電力管内に送電されていることだ。 これは、かつての福島県と同じ構図であり、そのほとんどは、首都圏に供給される。実際、6・7号機が稼働すると、それだけで東京の年間電力消費量の4分の1を賄うことができるという。地元から「なぜ、東京のために自分たちが我慢を強いられるのか」「自分たちには恩恵が感じられない」といった声が出るのも当然と言えば当然である。だからこそ、東電は地元をはじめ、さまざまなステークホルダーとの信頼関係の構築が欠かせないのである。
地元住民の声を直接聞く柏崎・刈羽の「地域の会」
「事前の地元同意がないのになぜ、7号機に燃料を装荷したのか?」 「燃料装荷はあくまで安全性確認作業のためのもの。私たち住民の事前の同意は必要ないのでは?」 「今日の報告を聞き、東電さんは自分たちが取り組んでいることに自信があるんだなという印象を持った」 7月3日夜、取材班は柏崎刈羽原発近くの柏崎原子力広報センターの会議室を訪ねた。「柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会」(以下、地域の会)の定例会を傍聴するためだ。会には、意見の異なる地元住民約20人が集い、東電や原子力規制庁、経済産業省、立地自治体の職員などと忌憚のない活発な議論がなされていた。 「地域の会」の発足は03年。前年8月、東電による自主点検作業記録不正事件をきっかけに、発電所の透明性を確保するため設立された。原発立地地域として、国とは異なる視点で補完的に「監視」を行うこと、国や事業者に対し「情報の公開」を強く求めることを軸に、有志の地元住民によって構成されている。フランスでも原発立地自治体に、地元議員や環境保護団体、発電所の労働組合などで構成される「地域情報委員会(CLI)」というものがあるが、これは法律で設置が定められたものであり、位置づけが異なる。柏崎市危機管理部の西澤公彦課長代理は「地域の会のような組織は日本ではここしかなく、フランスから視察団が来たこともあります」と話す。