中国の根強い「反日感情」裏にある“国民のリアル”。現地の学校教育に触れて感じた様々なこと
新聞社で10年ちょっと働き、未婚で息子を出産。日常生活に疲弊を感じ、追い詰められる中で息子とともに日本を飛び出すことを決断した、経済ジャーナリストの浦上早苗さん。向かった先の中国での日々や出会った人々との交流を記録した『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』を上梓した浦上さんが、中国での反日感情を巡る問題を語ります。 【写真】2012年の尖閣諸島領有を巡るデモでは一部が暴徒化。スーパーも被害に遭う ■中国での反日教育のリアルな状況 深センの日本人小学校児童の殺害事件を機に、中国人の反日感情について聞かれることが増えた。
筆者は中国の大学院に留学し、その後別の大学で教鞭を執った。その間、小学生の息子を現地の小学校に通わせていた。 広大な国土に、日本の10倍の人口が暮らし、省が違うだけで文化や発展度合いがまったく異なる中国全体の反日感情を語ることは難しいが、中国の教育現場にさまざまな立場で身を置いた一個人の経験から、反日教育や反日感情のリアルな状況を紹介したい。 中国政府が「反日教育」をカリキュラムとして実施しているという話は聞いたことがない。とはいうものの、日中戦争(中国では「抗日戦争」と呼ばれる)は小学校低学年の授業で取り上げられる。
国語だったか道徳だったか、息子の小1の教科書に日本軍と戦った八路軍の英雄物語が掲載され、「日本軍を追い返したぞ」と喜ぶ人民たちの挿絵が添えられていた。ただ、日本軍が中国を侵略したのは史実だし、日中戦争は中華人民共和国の建国と切っても切り離せない歴史の1ページだけに、教科書で取り上げること自体は理解できた。 深セン日本人学校の事件が起きた9月18日は、旧日本軍が南満州鉄道の一部を爆破し、満州事変の発端となった柳条湖事件の発生日と重なった。中国で「国恥日」と呼ばれるこの日は、筆者や息子の通学路にある建物の電光掲示板に「918を忘れるな」とサインが流れていた。
テレビをつければ八路軍が日本兵と戦う「抗日ドラマ」がしょっちゅう放送されている。中国に住み始めたときは「日本軍への敵意はこんなに強いのか」とおののいた。 ■国に貢献したい一方でアニメが好き ただ中国生活に慣れてくると、別の側面も見えるようになった。 抗日ドラマは日本の「時代劇」のようなジャンルとして定着しているだけでなく、コメディありカンフーあり、果ては日本兵と中国人将校の恋愛ありと、史実から完全に離れてエンタメ化していた。