お客様からかけられた「あなたここの社員?」この言葉で人生が変わった コロナ禍からV字回復を果たし、花で人を幸せにし続けている秘訣とは
代表就任1年目から「やるしかない!」と大改革
代表になり、改めて危機感をもったのが「観光農園」として「観光」も「農園(農業)」も大切なのに「農業」の方が重要視されていたこと。 当時、種をまき、花を育てる農業にはみんな力を入れて取り組んでいたが、観光に関しては「いい花を咲かせればお客さんは来るだろう」といった雰囲気だった。 もちろん、毎年美しい花を咲かせ続ける農業の技術向上も大切だ。しかし、それだけではなく、お客さんに繰り返し足を運んでもらうためにも「観光」の切り口からの魅力づくりや、来園した人に楽しんでもらい、喜んでもらえるような仕組みや仕掛けが必要だ。 相変わらず泥だらけになって働きつつ、ひたすら、さまざまな観光地の事例を調べたり、実際に足を運んだりしながら、常にアンテナを立ててアイデアを考え続けた。 一方、代表として会社を潰すわけにはいかない。数期分の決算書を読んで分析したり、自分の農園の方向性について考えたりしながら経営の勉強をした。昼は一日中畑で働き、夜は経営の本を読み漁りながら、思いついたことがあれば、手元の手帳に書きつけていく。 「もともと私は数字がすっごく苦手だったんですけど、今ではめちゃめちゃ得意になりました」と吉宗さんは笑う。 社内がなかなか一枚岩になれない葛藤も抱えつつ、吉宗さんが代表に就任してからの数年間で「修行時代」からずっと考えていたことを、思い切って進めていった。 1年目にまず進めたのが、報酬制度の改革。 「お客さんに喜んでもらうのが目的」とはいえ「いくら働いても同じ稼ぎ」では食べていけない。 そこで固定給を定期昇給にし、当時、春と夏の2回イベントをしていたため、成果に応じたボーナスを年2回出すことに。 「春、チューリップ祭でたくさんお客さんに来てもらえたらボーナスが多いよ。お客さんが少なかったらボーナスも少ない、もしくはないよ、という仕組みにしたんです」 そうなると、これまでの「お客さんは来ても来なくてもやることをやるだけよ」と、達観にも似たメンバーの意識が「少しでもたくさんのお客さんに喜んでもらって、たくさん来てもらおう」に変わってきた。 入園料も「花が咲いていないときは割引」「満開になったら満額」という料金変動制は維持しつつも、お客さんに安心して花を楽しんでいただき、イベント期間中の「観光の満足度」が長く続くように、花の種類や植える時期など工夫を重ねていった。それらの取り組みを通じて、安定的な収入を得られるようになってきた。 また、話題性も考えながらイベントを開催していくなかで、入場者数も右肩上がりに。徐々に変化の兆しが感じられるようになっていった。