お客様からかけられた「あなたここの社員?」この言葉で人生が変わった コロナ禍からV字回復を果たし、花で人を幸せにし続けている秘訣とは
「習うより慣れろ」ひたすら修行の3年後、20代で農園の代表に
吉宗さんは、農業に関する知識や経験がゼロ。質問すれば教えてもらえたものの「見て覚えろ」という時代だった。当時はインターネットも今ほど普及していなかったので、まわりの従業員の作業をひたすら見て覚えて慣れていく日が続いた。 高校・大学でのバドミントンで体力には自信があった。しかし、スポーツと農業の体の使い方はまったく別もの。日々慣れない作業で、泥まみれになりながら、早朝から日が暮れて暗くなるまで働く。 当時は福利厚生や給与体系が十分には整っておらず、1ヶ月ほぼ休みなしのときもあった。しかも、給料はどれだけ働いても基本給のみ。まさに、スパルタ修行のような日々が3年間続いた。 就農して3年が経つ頃、母が二足のわらじは大変だということで、吉宗さんが農事組合法人だった旭鷹農園の組合長に就任することになる。 しかし、肩書きはついたものの、やることはこれまでと変わらない。汗まみれになって、ひたすらお客さんに喜んでもらえるような花や野菜を作る仕事が続く。この3年間、働きながらさまざまな課題を感じていた。 より多くのお客さんに喜んでもらえるように、事業規模を大きくしていきたい。しかし、経営状態は少しずつ良くなってきたものの一進一退。これまでと同じことを続けていっても大きな展望が描きにくかった。 加えて、農園のメンバーは、葉タバコの時の経営時から長年働いている、自分の父親や母親と同世代の人ばかり。さらに高齢化が進めば、いつか限界がくる。今後「観光農園の仕事をしたい」と、この仕事に憧れて入ってくれる若い人たちが増えるといいな、と考えていた。 代表になったとはいえ、あれこれすんなり決められるわけではない。長年働いてきたメンバーとの、世代間での考え方の相違にも悩んだ。 全国にある観光施設の事例を参考に「お客さんに楽しんでもらえるような体験を始めるのはどうだろう?」「地元の食材を使って、何かメニューや特産品を作ってみては?」と提案するも…。 「じゃ、どうやったらできるんかのう?」「人が足りん」と言われると、経験不足もあり、なかなかみんなが納得できる方法を見出せない。 もどかしさを感じながら、落としどころを見つけ、取り組めるところから少しずつ進めていった。