お客様からかけられた「あなたここの社員?」この言葉で人生が変わった コロナ禍からV字回復を果たし、花で人を幸せにし続けている秘訣とは
1年にたった1度しかチャレンジできないから
吉宗さんの「まずはやってみる」という精神は、代表になって培われたという。 たとえば、目の前の一株のひまわりも、シーズン中は繰り返し花をつける品種もあるけれど、咲くのは夏の間だけ。つまり、ひまわりの植え付けから花を咲かせるまでの育成過程は、年に1回しかチャレンジできないのだ。 「こういうことをやってみたい」と思いついても、今年やらなければ、次にできるのは来年。だからこそ「やりたいことがある」とスタッフが相談してきたときは「いいよ、やってみよう」と、積極的に背中を押すという。 しかし、皆が最初から積極的にアイデアを出したり、農場やお客さんに強い思いを持っていたりしていた訳ではない。 適性を見ながら、入社して3~4年目の社員にもリーダーや植栽担当を任せることで、それぞれが思いを持って花畑のデザインや植栽、植栽管理、イベント企画運営、中長期の計画策定に関わるようになり、リーダーとしてどんどん成長しているそうだ。 彼らが思い切ってチャレンジできるように、経営全体のセーフティーネットとなるのが、今の吉宗さんの役割である。 現在、農場で働いている人たちのなかには、異業種から転職している人も増えている。そして、農場の社員26名のうち、半数以上が20代~30代で、全体の半分は女性だ。 吉宗さんが20代で代表に就任してから「観光農園の仕事に憧れて、ここで働きたいという人を増やしたい」と、少しずつまいてきた種が花を咲かせ、実をつけてきている。
「お客様に喜んでいただけるように」工夫と今後の展望
「旭鷹農園」から始まり、現在4つの農園の体制で進めている世羅高原農場グループの花観光。 それぞれに、季節を彩る花の絶景を届けている。 世羅町は、広島市をはじめとした都市部から「ちょっとそこのコンビニ行ってくる」といった散歩の感覚で行ける場所ではない。行こうと決めてわざわざ来てもらう必要がある。 だからこそ、初めて訪れたお客さんだけでなく、毎年訪れているお客さんにも、新たな発見や感動を味わってもらえるような工夫が必要だ。 そこで、4つの農園それぞれに、毎年新しい花を咲かせるチャレンジや、イベントのスケール感アップなどの取り組みを続けている。 例えば、世羅高原農場の2024年チューリップ祭では、サッカーグラウンド約9面分の65,000㎡に、200品種75万本のチューリップが美しく咲き誇った。 毎年テーマが変わるチューリップの花絵も「今年はどんな絵だろう」と、楽しみにしているお客さんが多いそうだ。 2024年も、9月中旬にFlower village 花夢の里で「コキアとコスモスの丘」を新しく開園するため、準備を進めているところだ。 広い園内には、歩き疲れたとき気軽に休めるよう、あちらこちらにベンチや休憩所、ハンモックなどがあるので、美しい花を眺めながらほっと一息できる。 筆者が訪れたときも、おしゃれなフォトスポットがいくつも用意されており、ファミリー、カップル、ペット連れなど、さまざまな層のお客さんが笑顔で思い出を残していた。 4つの観光農園が連携して、花を育てるのに適した冷涼な気候風土や大規模な丘の風景、周遊に適した施設間のアクセスなどを活かし、季節感やテーマ性のある花の絶景を複数巡ることができるのが、世羅高原農場グループの強みだ。 「『世羅に行けば、春、初夏、夏、秋、といろいろ見て回れる』と、全国の花の観光施設を見て目の肥えたお客様にも満足してもらえるような観光農園をめざしています」。