「才能あるのに売れないなんて、寂しいじゃない」 渡辺正行から小沢一敬へ。受け継がれる「若手芸人の登竜門」#昭和98年
現在は小沢もネタ見せに同席する。小沢が参画したことで変化はあった。 渡辺は、出演者と主催者の距離が縮まったことを感じている。ライブ開始時から37も年を重ねていたし、孫のような年齢の出演者も増えていた。小沢はその中間に立ち、つなぎ役に徹してくれるようになった。 「やっぱり今の子たちは小沢の言うことのほうが聞くよね。ありがたいですよ」 ライブ後の「打ち上げ」は反省会を兼ねていて、渡辺はそこでもアドバイスを送る。感じたことをストレートにぶつけられるのは、「お笑いが好き」と真っすぐに言える純粋さゆえだろう。
「ここにくる若いやつらは、やっぱり自分に自信があるんです。自分も若い頃はそうだったの。偉い人から何か言われても、『わかってねえな』って思ってた。若い時って、自分のことは客観的にわからないんです。才能あるのに売れずに、何十年も経っちゃったやつらはざらにいる。そんなの寂しいじゃない」 売れる、売れないは運もある。タイミング、時代の空気感。そこにうまく乗るためには準備が必要だ。ほんのちょっとした工夫で、結果が変わる時もある。 「こういうところをね、ちょっと磨いたら良くなるのに、って思うんですよ。だってさ、30年以上ずっと若手を見てきたんだもん。若いうちにはわからなくても、いつかわかるかもしれない。だから俺は言うんです」
お笑いを何で評価する? 「その場を沸かせた人が一番」
賞レースのたび、審査の是非がSNSを騒がせる。スポーツと違い、明確な基準はない。二人はどんなネタを「面白い」と感じるのか。小沢はこう言う。 「とがったネタですね。自分にしかできないようなネタをやっている人たちがいい。YouTubeでいろんな先輩たちのネタを見て勉強したなっていうのはあまり刺さらない。でも、ダメ出しはしません。僕の役目は彼らの背中を押すことだと思ってるから」 渡辺の答えは単純明快だ。 「その場を沸かせた人が、やっぱり一番ですよ」 小沢が主催者として「ラママ」のステージに立つようになったばかりの頃、渡辺が舞台袖から若手のステージを見て、大きな声を出して笑うことに驚いたという。「こんな大ベテランが、声を出して笑うのか」と。それを聞いて、渡辺が言う。