地域を再生するアーバンスイミング 世界での流行とニューヨークの最新事例を紹介
浮かびながら川を浄化するニューヨークの+ POOL
+ POOLは浮かぶ廃水処理施設のようなプールだ。濾過装置とUV消毒により、化学薬品や添加物などを使用せずに毎日100万ガロンの水を浄化できる。浄化した水は戻され、川そのものもきれいにすることができる画期的なデザインで、世界からの注目を集めている。 2010年にニューヨークの建築家ドン・ピン・ウォン氏がアイデアを思いつき、友人とともにFacebookで発表したことが始まりであった。クラウドファンディングで資金を募りながらの開発であったが、2024年に入りニューヨーク州と市から1600万ドルの資金の出資と、浮遊プールのための規制変更が行われたことで実現まで大きく前進した。 ニューヨーク州は2024年1月にNY SWIMSというイニシアチブを発表し、約90年ぶりに過去最大の1億5000万ドルを公共の水泳事業へ投資する。+ POOLはその目玉政策として、ニューヨークの公営プールとして2026年にオープンする予定だ。 キッズ、スポーツ、ラップ、ラウンジの4つのレーンによるプラスの形状のデザインで、組み合わせ次第でオリンピックサイズのレーンや、ひとつの巨大プールにも変更できる遊び心があるデザインも魅力的だ。+ POOLの完成後は、同モデルを州内に拡大する構想もある。
また+ POOLは2015年にNPO団体を設立し、無料の水泳教育の普及を目指してきた。子供から大人まで多様な水泳プログラムを提供するだけでなく、地元のNPOや雇用支援団体と提携しながら、難民の家族を対象とした特別プログラムや、学校での環境教育の実施、また無料のライフガード育成と雇用支援も実施してきた。 今後はさらに社会支援を必要とする地元の住民を中心に、施設運営、ライフガードのトレーニング、また濾過システムのメンテナンスや水質検査などの職業訓練や、雇用提供の場としても活動していく方針だ。 こういった取り組みの背景には、子供の溺死(できし)事故の増加がある。アメリカ赤十字社によると、アメリカの子供の1~4歳の死因の第1位、5~14歳の死因の第2位が溺死だ。コロナ後は過去最大のライフガード不足に直面し、溺死事故が急増している。また、ニューヨークでは所得が5万ドル未満の世帯の79%、またアフリカ系アメリカ人の子どもの69%、ラテン系の子どもの58%がほとんど泳げない状況があり、特定のコミュニティに水泳教育が行き届いていない現状がある。 クリエイティブディレクターのディミトリ・マーチン氏に+ POOLのビジョンについて話を聞いたところ、「公共の自然である水へ、誰もが安全に公平にアクセスできるようになることは、環境への技術を高めることと同じくらい重要なことだと考えている」と語り、完成後はより多くの支援を提供できる場所にしていきたいと語っていた。