地域を再生するアーバンスイミング 世界での流行とニューヨークの最新事例を紹介
生態系と都市コミュニティ再生のための「泳げる都市」憲章
2024年7月にはアーバンスイミングの国際連盟「泳げる都市(Swimmable Cities)」が憲章を発表し、21カ国の49都市の自治体、政府機関、民間企業、大学、文化機構らが署名した。欧米の都市が中心ではあるが、南米や南アフリカ、またアジアからは韓国のソウル、中国の北京、インドネシアのバリからの参加もある。 「国連生態系回復の10年」のアクターであるRegeneration Projects(リジェネレーション・プロジェクト)のマット・サイクス氏が代表を務める。連盟は「国連の持続可能な開発目標」「パリ協定」「生物多様性計画」などの戦略と整合させながら、2030年までに300都市が「泳げる都市」に参加することを目標に掲げている。2025年にパリ、2027年にコペンハーゲン、2029年にニューヨークでサミットも開催予定だ。 憲章の目的は「自然の権利と人権(誰もが安全に泳ぐ権利)の相互依存関係を認識すること」とし、自然の水路で泳ぐことを、都市コミュニティにおける社会、文化、生態系、経済システムの再生のための強力なインセンティブとして位置づける方針だ。そのため、アーバンスイミングには塩素を使った屋外プールは含まれず、具体的な取り組みには以下が挙げられる。 ⚫︎ルールの書き換え パブリックアクセスとしてのアーバンスイミングにより、工業廃水や雨水汚染などの慣例に挑戦する。行政は市民が自然の恩恵を受けられるよう、迅速に法的・規制的枠組みの改正を行うこと。 ⚫︎水泳への民主的な参加 アーバンスイミングは包括的かつ総合的なウォーターマネジメントを通じて計画、設計、建設、運営されるものであり、地域主導による自然水路での泳ぎ方や生態系リテラシーを学ぶプログラムを通じて、誰もが利用できるものである。 ⚫︎再連携とレジリエンス アーバンスイミングの施設とその体験は、変化する気候変動、環境、経済に適応し、レジリエンスのあるコミュニティを繁栄させるためのイノベーションとして投資されるべきである。 ⚫︎新たな経済機会の創出 アーバンスイミングの開発モデルは、社会、文化、生態系、経済の価値のバランスを図り、リジェネラティブな職業や産業、キャリア、生計を創出するものである。 ⚫︎ウェルビーイングの文化と知識を共有する アーバンスイミングは地域の住民、生態系、経済にウェルビーイングをもたらすものであり、先住民、伝統、西洋の水の文化や知識をお互いに尊重し合い、その効果を高め合うものである。 ⚫︎次世代に向けての責務 先住民、自然保護官、水保全団体、都市生活者、建築家、ソーシャルチェンジメーカー、教育者、政策立案者とともに協力しながら、アーバンスイマーは地球の水の健康を守る責務を持つものとする。 署名者は、既に憲章を自治体の方針や都市デザイン計画などに活用し、ユニークな活動を展開している。例えば、オーストラリアのメルボルンのヤラ市は地元の先住民のコミュニティと協力し、ヤラ川の生態系復活と気候変動対策に憲章を連携している。シドニーの水道局は、都市全域の水路の健全化と浮遊プールを含めた水泳スポットの建設を進め、オランダのロッテルダム市はウォーターフロント開発に浮遊公園での水泳や人工ビーチを含めるなど斬新なビジョンを打ち出している。ニューヨークには、アーバンスイミングの新たな幕開けともなる、世界初の濾過(ろか)装置が内蔵された浮遊プール + POOLがまもなく誕生する予定だ。 次はこういった取り組みが地域住民にどのような効果をもたらしているのか、ニューヨークの事例を見てみたい。