さくらももこの名言「私もほんとうはやっぱり笑いが一番好きなんで、…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。国民的漫画・アニメとなった『ちびまる子ちゃん』の作者でモデルのさくらももこ。言葉少なに語られるその創作論は意外なほどにクールでした。 【フォトギャラリーを見る】 私もほんとうはやっぱり笑いが一番好きなんで、下手な感動なんか入れない方がいいと思う 「あたしゃ、なさけないよ」というフレーズを脳内再生すれば、まるちゃんの声が聞こえてくる。1990年にアニメ化し、95年以降は約30年にわたり放送が続く『ちびまる子ちゃん』は、国民的作品のひとつだ。ご存じのとおり、作者のさくらももこは、まるちゃんのモデルでもあり、エピソードには実話を下敷きにしたものも少なくない。だから、エッセイ集『もものかんづめ』の読み心地は、ほとんど『ちびまる子ちゃん』と同じようなものだ。 その読み心地は例えばこんなふうだ。「さくらさんの文章を読むと、感動の涙に誘われて、読んだ後に、他人に対してやさしい気持ちになれる」。これは本書の最後に収められた「巻末おたのしみ対談」のなかの、対談相手の哲学者・土屋賢二さんの発言。土屋さんの知人がさくらももこの文章を評して言った言葉だという。さくらももこは「でも」と受けて、こう続けた。「私もほんとうはやっぱり笑いが一番好きなんで、下手な感動なんか入れない方がいいと思う」。さらに「それを書いても本にならないから、ネタになるための愚かしいことを浮かび上がらせているという部分もあります(笑)」とも。 とことん「笑い」を求めた一方で「感動の涙に誘われ」「やさしい気持ちになれる」とまで言われる由縁はどこに? 例えば、「愚かしいネタ」が生まれる家族団らんの温かさにその秘密があるのだろう。「さて、このスズムシを何に入れて飼おうか、ということが、今日の我が家のメインテーマである。こんなことが話題になる、サザエさん一家みたいな家族であることに内心幸せを感じているうちに、会議はどんどん進められていった」。こちらは収録エッセイ「スズムシ算」のなかの1文。ちなみに、初出は87年。「サザエさん」と並んでアニメが放送されるようになるのはこの3年後のことだ。
さくらももこ
1965年静岡県生まれ。漫画家、エッセイスト、作詞家。86年8月『りぼん』で「ちびまる子ちゃん」の連載がスタート(~96年)。90年にアニメ化。同年、作詞を手がけた本作の主題歌『おどるポンポコリン』で、日本レコード大賞ポップス・ロック部門賞を受賞。92年に一旦終了し、のち95年から現在まで放送が続いている。本シリーズは累計発行部数3000万部を超える。ほかの作品に『コジコジ』(94~97年、2010年~13年)など多数。18年死去。
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