【京急線上大岡はゆず、赤羽駅はエレカシ】日本独自の鉄道文化「駅メロ」: 耳に心地よく、ご当地PRにも活用
外国人観光客に絶大な人気を誇るスポットの一つが、富士山だ。大月駅(山梨県大月市)を起点に走る富士急行は全長26.6キロの私鉄で、常に富士山を目指す外国人観光客でいっぱいだ。目当ての一つは、沿線から至近距離で見える富士山の撮影にある。特に人気があるのが下吉田駅(山梨県富士吉田市)で、多くの外国人観光客が下車して富士山をカメラに収めている。 この駅で流れているのがロックバンド・フジファブリックのヒット曲。富士吉田市出身のメンバーで結成されたグループで、29歳で早世したリーダーの志村正彦(1980-2009)が作詞作曲、ボーカルを手掛けた「若者のすべて」と「茜色の夕日」の2曲が原曲のまま、列車の到着を知らせる接近メロディーとして2021年12月から流れている。
志村は、故郷をモチーフにした曲を多く残しており、この2曲にもその片鱗がある。「駅メロ」は志村の同級生だった富士急行社員が発案したものだった。「志村正彦を、富士吉田市を多くの人に知ってほしい」という思いから、2年がかりで実現にこぎつけたという。ホームには、志村とフジファブリックの功績、曲の歌詞が描かれたパネルが置かれている。駅を訪れる外国人観光客にも知ってほしいと、英語、中国語、タイ語の翻訳もつけられている。 だが私がこの駅を訪れた2024年1月、ホームは欧米やアジアなど多くの外国人でにぎわっていたものの、みな富士山を撮影するのに忙しく、メロディーやパネルに関心を持っているようには見えなかった。何かが足りないとすれば、富士吉田市と富士山、志村正彦の魅力を伝えるコーナーを、日英併記で駅構内に作る、といった工夫はあってもよいのかもしれない。 「駅メロ」の魅力を日本から世界に発信できないか。私はJR軽井沢駅(長野県軽井沢町)でジョン・レノンの「イマジン」採用に期待したい。日本の歴史的な避暑地である軽井沢は、夫人のオノ・ヨーコの実家の別荘があった縁で、ジョンとヨーコ、息子のショーンの一家が1970年代に何度か長期滞在したことで知られる。今もファンがジョンを偲んで訪れるスポットが軽井沢にはいくつもある。その入り口となるJR軽井沢駅で「イマジン」が流れるのなら、世界的に注目されると思うのだが。
【Profile】
藤澤 志穂子 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員、元全国紙経済記者。早稲田大学大学院文学研究科演劇専攻中退。米コロンビア・ビジネススクール客員研究員、放送大学非常勤講師(メディア論)などを歴任。著書に「駅メロものがたり」(交通新聞社新書、2024)、「学習院女子と皇室」(新潮新書、2023)、「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社、2020)、「出世と肩書」(新潮新書、2017)