【京急線上大岡はゆず、赤羽駅はエレカシ】日本独自の鉄道文化「駅メロ」: 耳に心地よく、ご当地PRにも活用
最古の駅メロは大分県豊後竹田駅「荒城の月」
これよりはるか以前に「駅メロ」に取り組んでいた例が実はある。 確認できる中で、最古の「駅メロ」は大分県の豊後竹田駅(竹田市)が1951(昭和26)年に始めた「荒城の月」だ。 竹田市で少年時代を過ごし、早世した作曲家、瀧廉太郎(1879-1903)の代表作で、市内に今も残る岡城址を想って書いた曲とされる。地元の人が、駅にレコードを持ち込み、列車の発車時に拡声器で流したことが始まりだったという。 当時は盤質が悪く、開始から12年で80枚もレコードを取り換えたという(大分合同新聞、1963年4月26日付)。1988年からは、地元の竹田市少年少女合唱団が録音した歌の音源が使われている。そもそも戦後の混乱期で、なぜ「駅メロ」の機運が生まれたのだろうか。 これは竹田が「隠れキリシタンの街」だったことと関係がある。キリスト教を通じ、海外の文化に目が開いていた土地柄であり、戦前に旧竹田町議会が、観光で街を活性化させようと決議した記録が残っている。 同じ大分県の別府や湯布院といった全国的に著名な温泉地と比べると、ひなびた温泉町だが、地域の人々は廉太郎を誇りに思い、功績を伝えていきたいという強い思いがある。戦後にスタートした記念音楽祭をルーツとする、高校生を対象とした「瀧廉太郎記念 全日本高等学校声楽コンクール」が2024年で78回目が開催される。このように「駅メロ」の魅力は、「地域を元気にしたい」と力を尽くした人々の物語にある。
外国人旅行者に響くか 富士山のふもとの「下吉田駅」
コロナ禍が明け、円安効果もあって急増している外国人観光客にも、駅メロを楽しんでもらいたいが…どうもそうでもないようだ。 例えば坂本九の「SUKIYAKI」が流れる川崎駅のホームを眺めていても、この駅メロに気付いた外国人が多いとは思えない。JR川崎駅の駅前ロータリーには全米No.1ヒットを含めて坂本の功績を紹介する記念碑が立つが、記載は日本語のみ。せめて英語の解説もつければ、外国人は関心を持ってくれるだろうか。 「SUKIYAKI」は国内外のミュージシャンがカバーしている。その中には“Stand By Me”の原作者で最初にヒットさせたことで知られるベン・E・キング(1938-2015)もいる。ベンは2011年の東日本大震災の支援のためチャリティーアルバムを発表しており、その中で「上を向いて歩こう」を日本語で歌っている。公演で来日した際には、坂本の妻で女優の柏木由紀子さんとも面会している。そんなことも紹介できるような記念館が川崎市にあれば、外国人観光客にも興味を持ってもらえるのではないか。