「深刻な乳がん」を進化させる遺伝子の型があると判明、強力な指標に、予防に期待
リスクの高い人を見つけ出す検査や新たな治療法の開発に役立つ成果
女性が親から受け継ぐある種の遺伝子の型(バリアント)は、本人がどのような種類の乳がんを発症する可能性があるかを示す強力な指標であることが、2024年5月に学術誌「サイエンス」に発表された研究から明らかになった。 ギャラリー:炎症を抑える食べ物とは、病気の進行やがんの治療にも影響 写真6点 がん細胞を含むすべての細胞の外側には、抗体が結合する「エピトープ」という部位がある。エピトープは、たとえて言うならその店がパン屋なのか、法律事務所なのか、劇場なのかを示す看板のように機能する。目立つエピトープはまるで輝くネオンサインのように、巡回する免疫細胞の注意を引き付ける。 遺伝子の型は、エピトープの「目につきやすさ」を決定する。そして、今回発表された、数万人の患者のデータを用いた研究によると、目立つエピトープを持ち、免疫系によって見つかったがん細胞は周りに広がりにくいものの、もしそうしたがん細胞が免疫の目を逃れた場合、転移性の活発ながんになる可能性が高かった。 がん細胞は検出が可能な腫瘍になる前から、悪性化する可能性を示すエピトープを掲げるという。つまり、この結果が示しているのは、がんが致死的になる可能性は非常に早い段階のときに固まるということだと、論文の最終著者で、米スタンフォード大学のがん研究者、データサイエンティストのクリスティーナ・カーティス氏は言う。 この発見は将来的に、深刻な乳がんを発症するリスクの高い女性たち(つまり、看板を免疫系が見逃す可能性のある女性たち)を見分け、より頻繁に検査を受けたり、新しい治療を受けたりするうえで役立つ可能性がある。 「どの変異が攻撃的な腫瘍の発達を促しているのかを理解できれば、より深刻な症状に苦しむようになる患者を予測する大きな助けになるでしょう」と、米フロリダ大学スクリプス研究所のがん生物学者、ミカリーナ・ヤニシェフスカ氏は述べている。
「同じがん」にも実は大きな多様性がある
長年の間、科学者たちは、致命的ながんはある種の細胞が一歩一歩段階を経て直線的に悪化してゆくと考えてきた。 だが2015年、カーティス氏は大腸がんのサンプルを用いて、攻撃的で転移性の大腸がんと進行の遅いがんが、発生する最初期の段階から細胞レベルで異なっており、不均一に混在していることを発見した。そして、成長する初期の段階に、多くの多様ながんが生じて広がる「ビッグバン」モデルを提唱した。 がん細胞同士であっても、大きな違いがある例は少なくない。米ダナ・ファーバーがん研究所の分子生物学者コーネリア・ポリヤック氏は、一人の女性が持つ一つの乳がん腫瘍内に、非常に大きな分子的および遺伝子的な多様性があることを発表していた。がん細胞は互いにまったく同じクローンではなく、遺伝子的にも物理的な特性でも非常に多様になり得る。 これは、ホルモン療法などの治療では、がん細胞を必ずしも根絶できるわけではないことを意味している。一部の細胞は生き残り、より攻撃的で治療法の少ない「トリプルネガティブ乳がん」腫瘍の種となる可能性があると、ポリヤック氏は言う。